ヒソップ
埃まみれの書物、天井には蜘蛛の巣、床に溢れた、要らなくなった書類。
ここは、人が利用しなくなった小さな書庫。
「…きっったないいぃぃいいっ!」
そんな書庫に響き渡る声を出したのは、青いバンダナを額につけた、可愛らしい容姿の少年――二葉だった。
その二葉の後ろから、ひょっこり顔を出したのは、エプロン姿の秋葉。
「…使用されなくなって、10年」
「こんなになるまでほっとくなんて…有り得ない!」
「…どうする」
「二人だけですからね…まず散らばった書類から片付けましょう」
ギュッと手袋を嵌める二葉。
エプロンに三角巾、口元には布をつけ、完全防備で掃除を開始する。
溜まった埃が舞い、視界が悪くなった。
「うわっ埃がヘドロ化してる」
「…虫」
「あ、毒虫…無法地帯にも程がありますね」
毒虫を外に逃がし、作業を再開する。
掃除の最中に会話はない。
黙々と続けたお陰か、床の書類は全て片付き、持ってきていたゴミ袋はあっという間に10を超えた。
「…ふう、ようやく床が見えましたね」
「…腰が痛い」
「僕もです…コレだけなのに二時間も掛かるなんて…」
「…次はどうする」
「次は……棚の本を出して天日干ししつつ、棚の清掃と天井の清掃…それから床を掃いて雑巾がけ、そういう手順で行きます」
「…飽きた」
「飽きないでくださいっ!…本、運びますよ」
「…掃除の落とし穴」
「え?」
秋葉がぽつりと呟いた。
聞こえはしたが意味が分からず首を傾げる。
秋葉は続けた。
「…本棚、またはコレクションしたものの掃除をすると必ずやる」
「? なにをですか?」
「本棚の場合、本を読みふける」
「あー…やりますねえ…」
「ここには昔の文献、小説、それから長の日記があるらしい」
「……もしかして秋葉さん、探す気ですか」
「ご名答」
「だっ、ダメですよ!?僕らは掃除しに来てるんです!それに人の日記を勝手に見るなんて…!」
「許可は貰った」
「早っ!…じゃなくて!掃除が先です!!」
「…日記探し」
「…もしかして、ここの掃除引き受けたのは、ただ日記を見たかったから、とか…ですか?」
「八割当たり」
「八割?」と首を傾げると、秋葉はぺらりと紙を取り出した。
なにか文字が刻まれている。
「何ですか?」
「長からの任務内容」
「……"二日以内に倉庫の掃除を終わらせること。ピーエス、わしの日記探すのも忘れないでね"…」
「そういうこと。ただ見たいが為に探す訳じゃない。ちゃんと理由もある」
「……」
二葉は、ただ唖然とする。
「…二葉は見たくないのか」
秋葉の言葉に、う、とつまる二葉。
正直気になる、興味深いもの。
長の日記は、何か絶対面白い事が書いてあるに違いない。
もしかしたら、秘伝の忍術とかが書かれているかもしれない。
「二葉?」
「く、う…ゆ、誘惑したってダメですよ!先に掃除…!」
「和葉の写真もあるらしい」
「探しましょうか、本」
「……」
ヒソップ
「うわあ…和葉ちゃん可愛いなあ…!あ、この写真も!」
「(…結局落とし穴にハマったのは二葉だったな)」
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