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その他
太陽のない世界 [沖斎・死]

「…総司、起きているか?」

「…一くん?起きてるよ。」


──カラ…


静かに開けられる襖。

それを開けたのは、僕の愛しい恋人で。

いつもなら、屯所で就寝の支度をしている時間に訪ねてきた一くんを、
僕──総司は、努めて笑顔で出迎える。


「どうしたの、こんな夜更けに。
明日も隊務あるんだから、早く寝なきゃ。」

「ああ。…だが、どうしてもあんたの体調が気になってな。」


布団の横に、律儀にもちょこんと正座をすると、
本当に心配そうな目をしながら聞いてくる。


「僕なら大丈夫だよ。
最近、吐血の回数、減ったんだよ?」


一くんを安心させるために、笑顔のまま応対する。

──回数は減ったけど、一回の吐血量が増えてるのは秘密だけどね。


「そうか…よかったな。」

「うん、大分楽になってきたよ。」


──これは、嘘。

むしろ一回の量が増えて、体力の浪費も激しくなり、辛さが増している。

でも、一くんの、あんな嬉しそうな表情見たら、
誰だってこう言いたくなるよね?


「…それで?顔見に来ただけじゃないでしょ、一くんのことだから。」

「あぁ。
今日の巡察で、菓子屋に寄った。
その…あんたはこれが…好きだったろう?」


少し顔を赤らめながら、袂から小さな包を出し、僕の枕元にそっと置く。

丁度僕の寝ている角度からは見えず、軽く体を起こし、それを見やる。


「…金平糖?」

「…あぁ。無くなったら、言え。
…また、買ってくるから…」

「ありがと。
本当に…一くんは、僕の喜ぶことばっかりしてくれるね?」


…自分のことすら満足に出来ない僕は、
君を喜ばせることなんか、何一つ…出来ないのに。

そんなことを考えていて、表情が曇っていたのか、
一くんが、僕の顔を覗き込んでいた。


「…まさか、自分には俺を喜ばせることが出来ない…とでも思っているんじゃないだろうな?」

「え…。一くんって、心読めるの?」


まさか図星なことを言ってくるとは思わず、
間抜けな顔をしながら返してしまう。

そんな僕を見ながら、一つ溜め息をついたかと思うと、
いつものきりっとした表情で、僕をじっと見つめてくる。


「…俺が何故、ここに通うか分かるか?」

「え?…僕の体調を心配して…?」

「それなら、山崎くんに聞けば分かる。
…俺は、お前に会いに来ている。この意味が分かるか?」


…ごめん、一くん。

僕、頭はそんなに悪くないはずなんだけど、
ちょっと遠回しすぎて分かんないかな…(笑)


「えーと…?」

「…俺は、局長や副長の命令以外では、自分に不利のあることはしない。

…俺は、自分に利があるから、ここへ来ている。」


…あくまでも、僕に答えを言わせるつもりだね?

さっき言ってたことを踏まえると、これしか答えがないんだけど…


「…違ってたら恥ずかしいんだけど。
──僕に会うことで、一くんが喜んでくれてる…ってことでいいのかな?」


………間。

次に一くんが浮かべたのは、
久しぶりに見る、心からの嬉しそうな表情だった。


「…っ」

「わかったなら、いい。
これ以上、そんなつまらんことを考えるな。」

「っはは…。
一くんには敵わないや。長生きしそうだね?」

「それは嫌みか?
…俺が長生きしたとしても、あんたが居なければ意味がない。」


そっぽを向きながら投げられた言葉に、
体の不調を無視して抱きつこうとした僕は、
布団に突き返されました。一くん酷い…(泣)


「…そんなに想われてるなら、早く治さなきゃね。」

「当たり前だ。…俺が待っててやる、早く帰ってこい。」


うん。
早く帰るよ。
一くんが待っててくれるなら。

僕は何にでも勝てるから。







──なのに。


「斎藤は一人、会津に残り…戦死した。」


どうして。

土方さんの言葉が、頭のなかで繰り返される。

どうして。

待っててくれるって…そう言ってくれたよね?

僕、戻ってきたんだけど…何で?


──どうして僕が居て、君が居ない…?


「総司!」


土方さんの言葉も耳に入らず、ふらふらと歩き出す。

一くん…居なくなったなんて、嘘だよね?
きっと、僕を驚かせようとしてるんだよね?


「総司!…受け入れろ。斎藤はもう…居ない。」


嘘だ。

嘘だ…嘘だ…


「…っく…ぅ…」


人が死ぬなんて、日常茶飯事で。

ずっと昔に置いてきたはずの感情。

頬に伝うのは…何?

教えてよ、一くん…





僕の世界から太陽が消えた。














暗ーーーーい!!!
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あきゅろす。
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