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夏ホラーレビュー
アオキチヒロ「ぱぱ」
新鮮な刃をもってして運命は回る。たとえそれが、一種の呪いだとしても
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 アメリカンジョークというものはブラックな皮肉に溢れていながら、実に理性的で客観的だ。
 海に人を落とそうとするとき、なんといえば海に落ちるか。日本人なら先にみんなが入ったと言え、イタリア人なら美女が飛び込んだと言え……。
 宇宙でボールペンが使えないとわかったとき、アメリカは莫大な資金を投資してボールペンを作った。一方ロシアは鉛筆を使った。

 冷静な視点で分析し、あるいは、斬新な切り口で滑稽というものをまざまざと見せつけ教えてくれる、それが冗句だ。
 そんなアメリカンジョークを素材に、先入観に左右されず自分流で味付けしてしまった。それがアオキさんの、「ぱぱ」。

 ある夏の日に息子が産まれた。普段は恐ろしく寡黙な彼は、科学では説明できない奇妙な力をもっていた。
 ――呼ばれた者が次々と死んでゆく」という力。
 彼に「まま」と言われると母親が死に、「おにいちゃん」と言われると兄が死ぬ。どんどん死んでゆく家族。そしてその先に驚くべきラストとは。

 このジョークでは、どんでん返しをもつラストこそがまさに“滑稽”。落ちに皮肉の笑いのエッセンスが凝縮している。
 しかしそれをざっくりと調理し、アオキさんは“恐怖”と“悲壮”に変えた。

 斬新な切り口で読み手の心を激しく揺らす。それはアメリカンジョークの本質だ。彼女は本質を、同じく本質をもって昇華させたのだ。

 既存の個性的な感性を、更に凌駕する。この作品のおもしろさは正にそこにある。

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あきゅろす。
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