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貧乏学生の本田があらわれた!
蘭さんは黙っていた

蘭さんは予備校の講師のバイトをしている。
私も予備校時代はよくお世話になり、友人としても仲良くさせていただきました。しかし、会おうと思って此処に来たわけではありません。

「み、見逃して下さい…」

「……また厄介ごとけ」

「…大丈夫です…」

タバコを加えた蘭は、片手に持っていた背広を菊の肩にかけて「そうけ」とつぶやき、一先ず、予備校の控え室に菊を招いた。


使われて居ないのか、控え室は電気が消えていた。それなのに一行に蘭はスイッチをつけない。
そして「なんでもない人間が、そんな顔しよるか?」とため息と共に、大きな手が菊の頭を撫でました。

泣きそうになるのを堪えながら、菊は頷き「まだ、まだ大丈夫です…」と祈るようにつぶやき、暗闇の中で蘭を見上げます。

「わたし、やっと大学生になれたんです」
「……さよか」

菊は、無理矢理に笑おうとしていました。
蘭は、口にだそうとしていた言葉を呑み込んで。黙って菊の事を見つめていた。



菊が逃げているものの正体は、何と無く察しがついているのです。いちバイトの講師がどうこう出来るような相手ではなく、しかし蘭は対策を用意しているのでした。
ですが、それを実行してしまうと菊はきっと悲しむのでしょう。今の生活とは完全におさらばです。

まだ、頑張れる内は…


黙って見ててやろう、と蘭は思うのでした。


「ところで蘭さん……段ボールは有りませんか?」
「…まさかとは思うけぇの、銭のうなったんか」
「……」
「トイチで貸すか?」

「しゅ、守銭奴…っ!!」



菊もだいぶ落ち着いたようなので、蘭は宿代を握らせて(利息はなしですよ)帰す事にしました。
基本見守る姿勢なのですが、菊もそれを分かっているので話していて楽なのです。

さて、蘭さんに別れを告げて菊はネットカフェに向かう…予定でした。
その前に、何か胃に入れようとコンビニに立ち寄ったとき。

やけに派手なバイクが止まっていると思ったのです。悪魔みたいな、なのにヘルメットがひよこのようなデザインで、変わったバイクだと思っていたのです、そこまでは

「あっ」

「……ふぁっ」


モデルのような顔面を全くいかせない、ジャージを着込んだギルが週刊誌とアメリカンドックを買って出てくるまでは。

ぶっちゃけ、忘れていたのです。


その時本田菊は、無駄な動きを一切挟まずに、見るものの時を奪うような、土下座をしたのでした。







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