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貧乏学生の本田があらわれた!
本田菊は幸せだった


ーーー本田菊は、幸せだった。



なぜなら、両手には今日発売の某ワンコインくらいするクジの景品がこれでもかと詰められた袋を持ち、ラストワン賞を三つ制覇し、頬の筋肉も一日中歩き回った筋肉も崩壊寸前の疲労感とそれ以上に幸福感からである。

季節は春。


夜の町はやや冷えていたが、菊にとってはむしろ春の麗らかな日差しを受けるような高揚感とーーー金欠による空腹感から、急に天地は入れ替わってしまったかのような浮遊感に襲われた。

「……ああっ、ミクさん…っ」

眩しい笑顔の、細部まで拘り抜かれたA賞のフィギュアだけは死守しなくてはならない。
いや、保存用に傷がついたら本当にいたたまれない。


自分の中での優先順位はフィギュアの完全勝利。


ごとり、とアスファルトに頭を打ち付けながら。菊は腕いっぱいに美少女フィギュアを抱きしめて、衝撃に耐えた。

ーーー走馬灯の様に、いままでの人生を振り返る。



本田菊は、浪人生であった。
厳密には社会人から、大学生になったのであるが、その辺りの話は追い追いするとして。

まず、高校時代の皮肉屋の友人の顔が浮かんだ。

ーーお前、本当に進学しないのかよ…

少し特徴的な眉毛を顰めて、彼は悲しそうに私を見ていた。今でこそ、頻発にメールをくれるが彼は才能があり、自分とはおよそ似つかわしくない人物だと思い、最近距離をとっている。


「すみません、アーサーさん」


こんな姿を見せたらーーー飯だけは食えよ、と言いながら彼はまた私に劇物をくれるのでしょうかね。



次に、大学入試の勉強を教えてくれた講師であり、友人のタバコの香りを思い出した。
めんどくさがりながらも、見捨てずに勉強を教えてくださったのに。

「ごめんなさい、蘭さん」


謝ったら、また、目を細めて頭を撫でてくれるのでしょうか。


せっかく出来た、大学の友人も。
サークルの仲間も、

まさかオタ活で散財して食うものに困って塩と水で三週間過ごしていたと知ったらどんな顔をするのでしょうかね……

「は、恥ずかしくて死ねます…っ!!」

呆れられる!絶対呆れられます!そして叱られてから、鬼のような形相した蘭さん辺りにミクさん達が捨てられてしまっ……



…ーー菊くん、僕を捨てるの?

「っ!?」


ーーー酷く寒い、声音で。
ーーーいつもと同じ笑顔で。


ーーいっそ、壊してくれたら…




何かが溢れ出しそうになって、菊は何も入っていない胃から何かを吐き出しそうに咳き込んだ。
記憶の蓋を強く閉めれば、あのねっとりとした寒さは徐々に遠のいて行った。


……げ、幻聴ですか。
それに蘭さんは捨てるよりお金に変えて来そうですね、よく考えたら。
なんて、昔の友人について考えて笑みをこぼす。



…まぁ、全部妄想ですけど。



現実問題、本田菊は栄養失調と筋肉痛でアスファルトに萌えグッズを撒き散らしながら倒れているのだ。
そんな笑ってる場合じゃあない。

遠巻きに眺める人もいない、路地裏に差し掛かった場所で。



たくさんの「嫁」達に見守られて大往生ですか…それも良いですね……

しかしっ…!!



「せ…せめて…保存用だけは…」



「……何してんだ、お前」


ふっ、と街灯の明かりが遮られて菊は目を開く。
目線だけで振り返ると銀の髪が、街灯に縁取られて淡く輝いている。目は、血のように赤いのを見て菊は思った。

「……厨二…おつ…」

「は?おい!!なんだよ!!俺様なんかしたか!?なんか分からねえけど、撤回しろぉお!!」

朦朧とする意識の中で、その厨二前回な容姿の美青年が菊の肩をつかみ、何かを訴えかけるように揺さぶり続けているのを感じていた。

しかし、菊は意識を手放すことにした。


…萌えグッズは決して手放しませんとも!!えぇ!!









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あきゅろす。
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