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オトンとオカンと
弱みに突け込めば


「たっだいまー…、って独眼りゅ、梵天丸?どーしたの?」


帰ってそうそう、玄関先で待ち構えていた梵天丸と対峙した佐助が首を捻り尋ねた。

隻眼の少年は、じっと睨むように佐助を見つめた。
やがて、感情無く彼はつぶやいた。

「…鵺子が、落ち込んでるみたいだからな。アンタが行って慰めてやれよ、」

「ふーん、なるほどね!つまり独眼、……梵天丸じゃ役不足って事かぁ!」


元々、佐助は梵天丸(政宗)をいけ好かないガキだと思っている為、挑発的になってしまう。
その挑発をあっさりかわして、梵天丸は「そうだな」と頷いた。


「数日過ごしただけで、人の腹ん中が覗けるかよ。順当にアンタや小十郎が適任だろ?
…you see?」


「はいはい、sure!」

不敵に笑った梵天丸の英語に、流れで答える佐助。


すると、梵天丸が驚いたように目を見開いた。


「…南蛮語、分かるのか」

「まっ、必修だし〜?俺様って器用だからさ」

「…ここは、未来っつったな?なら…」


梵天丸の表情が、いち武人のように清廉されていく。

「…いずれ、日の本は南蛮に支配を受ける…いや、それなら言語を奪われて、つまり…」

ばし、と佐助は梵天丸の頭に手を置いた。


「やめときなよ、アンタはこの未来には居ないんだからさ。
……どんな未来になるのか、どんな結末になるのかなんて知らない方が人生楽しいっしょ?
賢いのは良い事だけど、無粋な賢さは人生を興ざめさせるんだから。
馬鹿でいなよ、」

もちろん、馬鹿とは間抜けの事ではない。

邪推しようとした梵天丸の頭から手を離して、佐助は部屋に上がった。


「さて、鵺子のオカン参上〜ってね…」


◇◇◇◇◇


実を言えば、今は深夜であって。梵天丸が起きていた事が意外なのだが、それは置いておこう。

いつもなら雑魚寝しているリビングには、梵天丸除くチビっ子達が眠っている。


じゃあ、と佐助は踵を返して。

台所の、一目では分からないような死角で体操座りしている鵺子を発見するのであった。


眠っているのか定かではないが、こんな場所で寝ては風邪を引く。
起こそうか、と手を伸ばした佐助は。


そのまま、鵺子の頭を乱暴に撫でた。


「ほら、起きろよ鵺子ー!風邪引くよ?」
「……っ、やめ」

「あっは、泣いてたの?」


下から睨み付ける鵺子の目が赤いので、からかうように佐助は笑う。泣いてた、なんて正直に言わない彼女を。




とても、





「…違う、目にゴミが入って…それで…」

「台所で寝る理由には、ちょーっと足りないんじゃない?」




とても、




「……っ、少しくらい…強がらせてくれないのか、」

「…俺様に、嘘つく必要も見栄張る必要もないよ、鵺子」


そう言ってしまえば、彼女の目に水の幕が張って。たちまち溢れ出して流れ落ちる。

あぁ、綺麗だな。



俺にはきっと、流せそうもない涙だ。



だからこそ、



「…よく頑張ったな、鵺子」

「……っ、!!」


両手で、顔を覆って泣くから涙が見えない。無意識にその腕を掴んで、その顔を眺める。



「お、おか、え…」


グズグズと泣きながらも、
おかえりと言う、鵺子が。


「……ただいま、」



とても、愛しい。




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