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ある夜の秘恋の噺
双子兎の土鈴



ーーーいつか、月に帰るんだろう?





あの人は悲しむでもなく、何故か少し楽しげに尋ねてきた。

不思議な人だ、代わる代わる訪ねてくる五人の求婚者たちも個性豊かな面々ではあるのだが。彼は別格である。


「寂しくはないのですか」


ーーーおかしなことを言う。寂しくなるのはお前だろう、私に会えなく成るのだからな。

変な人だ。
自信満々にそう言い切って、少したってから優しく笑う。


ーーーだから、コレを連れて行け。月には兎が住むと言うからな。


着物の袖口から、コロコロとした白い土鈴のような兎の御守りが一個、手のひらに乗せられた。

コロコロ、と素朴な音がなる。

「…可愛い」

そうだろうそうだろう、と自慢げに頷く彼を横目に愛らしい兎の御守りを転がす。

ーーー私もひとつ、同じものを持つから。だから忘れないでくれ、カグヤ。


その言葉に、自分はただ月に帰るだけではなかったと思い知る。
この人を、置いていく。
仙人と下界では呼ばれる類の自分は、この人よりもずっとずっと長生きをする。

そして、いつか


「忘れたり、しない…」

あたりまえだ、そんなこと。





こんなに、愛しているのに。


「貴方みたいな人、忘れたりしません…」

そう言ってやると、彼は少し悲しそうに目を細めて口元を緩ませた。



ーーーそうしてやってくれ









お前のいない世界は、





生きるには辛過ぎる。










◇◇◇◇◇◇◇◇◇



コロコロ、と優しい鈴の音がした。
その音で覚醒した郭哉は重たい体を引きずりながら手探りをする。


こつり、と指先に土鈴の冷たさがあった。


拾うように握ると、手のひらに収まるそれは雪兎のような形をしている。誰にいわれずとも、これは自分のだと郭哉は確信した。

「知ってる………?」

何故か、泣き出しそうになる。


あぁ、ダメだ。


忘れてしまったら、


あの人が、悲しむ。



あの人は、



「……っう、……ぁ」


思い出せない。
なのに、気持ちは先行して。涙が止まらない。





「カグヤ…?」

かたり、と襖が開いて。辰壬さんが起きてしまったのか、起きていたのか分からないが心配そうな顔で歩み寄ってきた。

「ごめん、なさい…っ」

「…カグヤ?どうした、の?痛いの?」

「ごめん…っ」


辛い、

悲しい、

悔しい、


理解出来ない感情の本流に、飲み込まれてしまったらしい。息が出来なくなる、何かが喉まで溢れて。代わりに涙が押し出されるみたいだ。

辰壬さんの両腕が、俺の体を抱きしめた。

「た、づみ…さん…」

「そばに居る、よ」


片言の宣言に和みそうになるが、彼は至って真面目なのだ。

「…は…っ、ごめんな、さい…俺……、どうして…」

「だいじょうぶ、ゆるす、だから…」

そう言って、唇を塞がれた。
息が出来ないって言ってんのに塞がれた。

苦しいのに、

空恐ろしいのに、


頭が真っ白になる。


「……っ、はっ…殺す気か…っ」

「その時は、一緒に死ぬ」

にっこりしながらそう宣言されるもんだから、うかうか死ねないなと思いました。
お陰様でちょっと落ち着いた。
絶対に礼は言わない。







でも、疑問はある。
なんで今まで手元に無かったこの御守りが枕元に……ってなんかホラーみたいな展開はやめて欲しい。そんなタグ付ける気はない。






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あきゅろす。
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