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ある夜の秘恋の噺


俺の発言に、竜の姿になった辰壬さんは首を傾げた。キョトンとしたその目は、やっぱり彼だと俺に確信させた。


「あなたを、俺は預かったんです。預かったものを川に捨てるなんて出来ません…!」


『…夜が明けたら、帰るから。だから…カグヤは帰って』



「今、帰るんだよ…!」



思わず、片足を水に突っ込んでしまった。秋とはいえ川の水は酷く冷たい。なんでこんな冷たい水の中に居れるんだよ、竜ってすごいな、とかちょっと考えて。

「…なんで水の中から出ないんですか?」


『え…』


「寒いじゃないですか…!風邪引いたら食べ物の味分かり難く成るんですよ、信じられない…!」

秋のシーズンに風邪なんか引いたら人生において損だ。秋の味覚の素晴らしさを知らないのか辰壬さん!
サンマとか松茸とか栗とか芋とかってか何でも美味しい魅惑の季節だというのに!


『…見られたく、ない』


「…はぁ?」


『こんな姿みたら、きっとカグヤは怖がってしまうから……こんなのは嫌だ、カグヤを抱きしめられない、この爪で触れたらカグヤは傷付くから、

…だからっ』



「むしろ、スッゴい美味しそ……、」

いかんいかん。なんか見てたらウナギ食いたくなってきた。ちょっと旬じゃないけど。

抱きしめられない、とか。


「そんな事なら、簡単です」



俺は更に、足を進めて川の中へと歩いて行く。水位は腰の辺りまで来たが、問題ない。ただ石が滑りそうだから気を付けないと。

じっとしている、辰壬さんに。その美しい巨体に手を伸ばして。ツルツルとした鱗のある体を撫でて、俺は腕を伸ばしてその体を抱きしめた。




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あきゅろす。
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