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ある夜の秘恋の噺
帰りましょう

階段を上がれば、ここいらでは一番大きな川が眼前に広がった。車や電車が通る為の橋もある。

バシャバシャ、という音を頼りに。
俺は身の丈よりも大きな草を掻き分けて水辺へと進む。ぬかるんだ足元に気を払いながら、草村を抜け出した時だった。



「…嘘…」


大きな、蛇?
いやこれは竜だ、間違いなく竜だだってなんか角とかたてがみとか生えてるし、だけど俺は辰壬さんを探しに来たのであって竜を探しに来たのでは、


『カグヤ?』


「う、っえ?」


『カグヤ…』


確認するように、竜は喋った。きらきらと金色に輝く竜の、紫水晶のような目にどこか既視感を覚える。


「た、辰壬さん…?」


川でのた打ち回っていた竜は、俺の出現でピタリと静まっていた。うぉぉ…CGじゃないんだ、生き物である事を強調するように竜は呼吸し、ゆっくりと俺に向かって来た。


『カグヤ、今すぐ逃げて』

「…はい?」


『このままでは君を、襲ってしまうから』


神聖な雰囲気を纏う彼の瞳は、飢えた獣のようにギラギラとしている。しかし、そうも行かないのだ。

ここは車も通るし、人の目に触れない訳にもいかないだろう。
だから、連れて帰らないといけないのだ。


「辰壬さん、帰りましょう」


あ…あし、足!がくがくするな頼むから。畜生、今までこんなデカい動物と対峙した事なんてないし、どうやってこのデカい巨体を持って帰ろうとか、そもそも家に入るかも分からない。

けれど、


『…怖いでしょう、なら逃げて。大丈夫、一晩したら帰るから…』



「…そうもいかないんですよ」



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