ある夜の秘恋の噺 社家に電話 【竜友視点】 郭哉が辰壬を探している頃に、家に残った竜友は『ある場所』へと電話をかけていた。 ワンコールで、相手側が出た。 『もしもし、社(やしろ)に御座います』 *** 取り次ぎを頼むと、しばらくして千晶が電話に出た。 『もしもし?竜友さん?』 「…辰壬の件だが」 『僕に言わないで、直接辰壬くんに言わないとー。まだ大学の課題終わってないから、』 「あいつの手の封印、解けかかっていたぞ?お前が担当だろう?」 封印が解けていたら、郭哉の怪我はあの程度では済まない。流石に事の重要さが分かったのか、千晶も唸るように返事をした。 『嘘だろあの馬鹿力が…!満月だし元の姿に戻ってしまう可能性も有ります、竜友さん…辰壬くんは今どこに?』 「それが、飛び出してしまって…」 『いやいやいや!ヤバいですって!そうじゃなくても、最近は晦(つごもり)がうろついてるらしいですし!』 慌てる千晶の声を聞きながら、竜友は「そうか」と冷静に返している。 千晶が、呆れたように「もう少し慌てて下さいよ」とか「竜友さんも探しに行って下さいよ」とか言っても、竜友は「そうか」とだけ答えた。 家で待つ事も、大切だと思う。決して風呂に入った後に無駄な汗をかきたくないとか、思った訳ではない。 『…はぁ、置いてかない方が良かったですかね?当主様にも叱られたし、』 「そうか」 けれど、仕方もないだろう。彼は…いや、私達は待ち望んでいたのだから。カグヤ姫の再誕を。 二度と会えぬはずの彼女が、例え男に生まれ変わろうと関係ないのだ。ただただ、愛しい。 しかし、私の愛しいと彼らの愛しいは少々意味が違うらしい。別に嫌な事ではない。そのおかげで15年間は独り占めできたのだから。 …郭哉、待ってるからな。 [*前へ][次へ#] [戻る] |