小さな歩み寄り1
『選ばれし勇者達よ。よくぞここまで来た』
ワープゲートを通じて辿り着いた巨大輸送艦ラディスロウの最深部。その中央の台座に、一本の古びた剣が置かれていた。
そんな厳かな雰囲気の中。カツカツと早足で台座に近付いて行き、
ぐわしっ!
『な、何じゃいきなり!?』
「それはこっちのセリフだ。出だしからなーにをシリアスっぽく決めてくれちゃってるかな、このじーさんは」
とりあえずは初対面なので笑顔は絶やさずに。え、手がコアレンズを力の限り握りしめてミシミシいってるって?まぁ、そこは気にしない、気にしない。
『ちょっとシェイド。一応仮にも目上の方なんだから、クレメンテ老に失礼よ』
『アトワイト……敬うのはそこだけか?』
「えっと……シェイド、アトワイトもああ言ってる事だし、とりあえず手、放さないか?」
「黙ってろスカタン。外野のいざこざは関係ない。今俺は一人の若者としてこの老人ソードと平和的かつ穏便に話し合いを進めようと思っているんだ!」
「「「『『(いや、既に手出てるし)』』」」」
またもや俺を除いた皆の心が一つになってる気もするが、気にしちゃ負けだシェイド!ポルターガイスト現象と同じさ!気にすると寝れなくなるのさ!我ながら意味わかんねぇよ!
「とにかく、だ……俺とフィリアを呼んだ理由をお聞かせ願いたいんだけど」
『わ、わざわざわしを迎えに来るからには、よほどの事が起こったんじゃろうと思って、マスターの素質のある者を呼んだだけ…、」
「心の内を正直に答えてもらおうか、クレメンテ」
みしみしっ
『び、美人でピチピチな娘がマスターじゃったら面倒臭そうな旅もさぞ楽しかろうなあと……』
間。
「うわ、言っちゃった……」←スタン
「あーあ、アタシ知らないわよ?」←ルーティ
「はぁ……」←リオン
「え、一体何が……むぐっ!?」←フィリア
「フィリア、口は災いの元と言うらしいぞ?」←マリー
というワケで。
「ちょっと歯ァ食いしばれや」
『え、(汗)……いやわしはソーディアンじゃから歯は……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
ピンポンパンポーン♪しばらくお待ち下さい。
『シェイド、もうその辺にしておいたらどう?』
「まだちょっと気が晴れないが、アトワイトがそう言うなら」
『ア、アトワイトは剣になっても優しいのぅ……(感涙)その上美人でスレンダーじゃし……』
「……アタシから言わせれば、スレンダー=まな板よね?」
『シェイド、老も千年こんな所に閉じこもってて運動不足でしょうから、もう少し付き合ってあげなさい』
『ア、アトワイト!?わしももうトシで…、』
『主治医の私が許可するわ』
「アトワイトがそう言うなら」
『ま、待て。話せばわか……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
ピンポンパンポーン♪もうしばらくお待ち下さい。
『………(死)』
どうやらクレメンテはただの剣になったようだ。
とまぁ、それは置いといてだな。
「フィリア、悪いけどその女好き老人ソードの面倒見てやって。今要介護レベル3だから」
「え、え?私が……ですか?」
「フィリアがマスターだからな。コレの」
と言って真下に転がるただの剣を指差す。え、失礼だろって?剣に人権その他諸々はないからな。(酷)
「私が、マスター…?」
「ソーディアンの声、聞こえてたんだろ。クレメンテに呼ばれたんだろ。俺と一緒にっつーのが不本意極まりないけど」
ソーディアンを手渡し、しっかりとその柄を握らせる。
「戦う力、欲しいんだろ?」
「フィリアも一緒に戦ってくれたら心強いしな!」
「シェイドさん、スタンさん……!」
スタンの後押しで、それまでどこか曖昧だったフィリアの表情が一変する。
「私は大司祭……いえ、グレバムから、神の眼を取り戻してみせます。何があっても。どんな事をしても。それが私の責任、私の義務ですから」
その手に持ったクレメンテを、かかえるように握り締めたのを見て、マスターになる決意を固めたんだろうとホッと一息。
「ふぅーっ、円満解決」
『当事者の片割れの意思は完全に無視の方向で決まったな』
どこか呆れたようなディムロスの声。
「今から了承“のみ”を得る予定だから問題ない……おいコラじーさん、いくらフィリアに抱き締められてるからっていつまで狸寝入り続ける気だ?」
『………(ギクッ)』
「……老後の健康のためにも、目覚めにはもうちょっと激し目の運動が必要かな?」
『起きとるっ!起きとるからもう運動は必要ないっ!!わしが悪かったからもう勘弁してくれっ!!(←必死)』
と、指ならしにボキボキやってた俺を止どめる人物が。
「あ、あの、シェイドさん!彼にも色々伝えておかなければならない事もあるでしょうし……私がいきなり抱き締めてしまったのがいけなかったんですから、これ以上責めないであげて下さい!」
『フィ、フィリア……っ!!(感涙)』
チッ……しゃーねー。今回はフィリアに免じて勘弁してやるわこの女好きセクハラ老人ソードが。
『で、一体何があったんじゃ?』
『実は、神の眼が……』
これまでの経緯を話してる間に、俺は室内を一人ぶらぶらと探索中。部屋を囲うようにして設置されてるコンピューターも、俺が知ってるものとは大差ない。この辺は違いはないみたいだな。
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