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どろり。
深淵から目覚める。その少年は、ニヤリと気味悪く笑うと俺に笑いかけた。俺は怖くなって、逃げるんだ。白い世界まで。でも、最近その世界が遠くなるんだ。

「あっ、ゆき…む、らく、ん。」
「やあ。名字さんって、いつも裏門から帰ってたっけ?」
「え…っ?あっ、うんうん。今日はちょっと…」
「へー、じゃ、俺と一緒に帰ろうよ。確か家の方向…一緒…だったよね。」
「いいの?」
「うん。」

俺達はゆっくり家に向って歩き出した。時折話したり…(全部俺からだったけど)。名字さんは何かに怯えてるみたいで、しきりに振り向いては、安心したように息をついていた。

「どうしたの?」
「え…っ、あっ、ううん。なんでもないっ。」

詮索されたくないのか、名字さんは急に足早になった。ああ、その分かりやすい単純な所…可愛いね。

「…もしかして、ストーカーにあってるの?」


名字さんは少し肩を震わして立ち止まる。そして、こちらにゆっくり振り返った。目は涙ぐんでいた。

「…ここ最近、ずっと誰かがついてきててっ。私っ、怖くてっ。」
「だから、今日は裏門から?」

こくりと頷いた名字さんもとても可愛かった。まるで、肉食動物に食べられかけてる草食動物みたいで。


「じゃ、これから俺と帰る?」
「…え?」
「男と一緒だったらストーカー犯も諦めるんじゃない。」
「でも…、幸村君はいいの?」
「俺?俺は大丈夫だよ。」
「…そっか。じゃ、明日から一緒に帰ってもらってもいい?」
「もちろんだよ。」


こうして、俺達は一緒に帰ることとなった。一ヵ月も一緒に帰れば、お互いが親密になるのも時間の問題で案外あっさりと名字さんは手に入った。


「精市、一緒に帰ろ。」
「うん、そうだね。」


ふふっ、と俺は笑う。


名前は知らない。俺だけの秘密。


を塗りつぶす


いつのまにか白紙のページは、真っ黒な感情によって汚れていた。
 
 
 
 
 


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あきゅろす。
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