▼仁王 『こんなに好きなのに』
『証』が足りないんじゃ。『証拠』が、俺のだっていう『印』が。
どうしようもなく、それが不安で、そんな海の中で溺死してしまいそうで、苦しくて。
名前を壊してしまうにはそう時間がかからんことに、ずうっと前から気付いとった。じゃが、それに抗えんくて…。それは過剰な束縛へと姿をかえた。
のに、名前はなんべん言うても俺以外の男と話すし、俺はさらに不安になった。俺は部活をさぼって、名前を家に呼んだ。部屋に入るなり、俺は名前を抱き締める。
「名前…っ。名前っ。」
「ん?」
「なんで他の男と喋るん…っ?」
「話しかけられたから、仕方ないでしょ。」
名前は立ってるのは辛いと言わんばかりにしゃがみこんだからから、つられて俺もしゃがみこんだ。
「名前が他の男と話してるの見てるんは辛いぜよ。」
「……。」
「俺はこんなに名前んこと好きやのに、名前は違うんか?」
「私は雅治が好きだよ。」
「じゃあ、なんで…っ。」
名前が俺の頭をなでなでしてくる。まるで赤ん坊か幼稚園児をあやすように。その瞬間だけふっ、とドロドロしたものが流されていく気がして、俺は安心から涙が流れた。
「雅治は可愛いねぇ。よしよし。」
「名前…」
ぎゅうと俺は名前の服を握った。
「あー、もう。本当に雅治可愛い。だからやめられないんだよね。雅治いじめるの。」
顔を上に向かされて唇が触れ合った。
「ねぇ、雅治…もう私に狂ってしまえれば楽になれるよ」
そう言って、君は無邪気に笑う。
…俺はこのまま狂ってしまってもいいんじゃろうか、とふと思ってしまった。
雅治が完全に私の手の内に墜ちるまで、あともう少し。
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