人間嫌いとサイコパス
9
『いたいっやあっ』
『やだよぉ』
『ひっ・・・やだぁあ』
『いたいっいたいっ』
『いだぁっあああっ』
『だれか、たすけて』
いもしない神にすがったあの日々がフラッシュバックする。
ああ、せっかく忘れていたのに。
「答えろ、何故お前が学校に通い、義兄なんぞと暮らしている」
「ぃぁ、ぅう」
嫌なことがいっぱいありすぎて、頭の中が真っ白で。
僕は、僕は。
「あの男は何者だ」
「ひぃっ」
つかまれた腕が痛い。
助けてください、誰でも良いから。
この人と居たくない。
だれか。
だれ・・・。
べに。
「たすけてぇっべにぃ」
来るはずなんて無いのに。
それでも僕は、祈った。
神様なんて居ないけど、紅はたしかに存在して、僕を愛してくれる。
「うちの弟に何してんだテメェ」
それはいきなり聴こえた紅の声。
でも聞いたこと無いくらい、低い声で。
一瞬誰か分からなかった。
紅は僕をつかんでいた杜季さんの手を握り、僕の腕を開放すると優しく抱きしめてくれた。
紅につかまれた杜季さんの腕はミシミシと嫌な音を立てている。
「少年兵上がりの成金が何故そいつを飼っている」
「ほう、俺の身元ちったあ知ってるのか・・・堅気じゃねぇな、てめぇ」
「質問に答えろ」
「答える義務が何処にある?何度も言わせるなこいつは俺の弟だ」
「・・・返せ、それは私のものだ」
「返す?いつ脩がお前のものだったよ?」
「脩?そいつに名前をつけたのか、似合わん名だな」
見たことも無いほど怖い紅と、怖い杜季さんに挟まれて、僕は紅にしがみ付く事しか出来なかった。
目の前の二人が、いったい何を話しているのか、僕の頭は考えることを放棄して、ただ目を瞑った。
「もういいだろ、俺たちは帰らせてもらうぜ」
「まあいい、今回はそれの生存を確認できただけよしとしよう」
そういうと、意外なほどあっさり杜季さんは僕たちを解放した。
帰り道、紅は繋いだ手を離そうとはしなかった。
強すぎるその力は、必死さが伝わってきてうれしかったけど・・・すこし、痛かった。
「杜季様」
「なんだ」
「腕の調子は、大丈夫ですか」
「少しひびが入っただけだ、問題ない」
いや、あるだろ。
とは言わずに、部下は一礼した。
「尻尾がつかめません、あの男」
「CIAだ」
「?」
「情報を消されているのなら、軍に関わっていた可能性が高い」
「では、そちらの方を調べなおしてみます」
部下が扉を開き、横付けされたリムジンに男は乗り込んだ。
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