うたかた 3 (佐幸転生パロ)
(あの日、言えなかった言葉がある。)
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じっとしていても汗ばむような陽気だった。
蒸し蒸しとして――死体はすぐに腐って異臭を放つ。
陣幕に彼の姿がなくて。
陣屋中を捜し回って、陣の外で彼を見つけた。
彼は星を見上げていた。
「旦那ー何でこんなとこにいるの?だめだよ物騒なんだから」
「あぁ」
気のない返事。
溜め息をついて側に控える。
星が降ってきそうな夜だった。
小さくなっていく陣の規模。
劣勢だ。当然だろう。
見知った顔がどんどん欠けていく。
(きれいな横顔。)
この年若い主の、何かを見上げるときの顎の線がすきだった。
気付けば、指先が夏の暑さに逆らうように冷たくなっていて。
焦躁。
石をのんだような気分。
「…ねぇ、旦那」
あかい。
まぶしい程、生き生きとした人。
「へいわな時代に、生まれればよかったね」
どうしてだろう。
どうして、こんな人がこんな時代に生まれてきてしまったんだろう。
もっと、もっと楽しくて、しあわせな人生が似合う人だったのに。
確信が、ある。
別離
(ねぇ、旦那。どうして、こんな時代なんだろうね)
殺して、殺して、殺されて。
そんな、
己の死の予感より、あなたを失う確信の方が恐ろしいのに。
笑って欲しい
幸せでいて欲しい
だからどうか、生きていて
その声なら届くから
あなたが呼んだら聞こえるから
いつだって、
どんなときでも会いに行くから
ねぇ、旦那
「なんだ。そなたそのようなことを考えていたのか?」
顔は空を見上げたままだったけど、その声はいつも通りで。
「確かに――忍としての人生は穏やかではないなぁ」
―――どうして、そんな
「ち、がうよ。俺じゃなくて、旦那だよ」
「俺か?俺はけっこう幸せだぞ?」
幸村が、こちらを向く。
ふっと。
自信ありげに、生き生きと。
悲しみもよろこびも全て飲み込んだような顔で、
笑った。
「一番駆けは渡さぬぞ、佐助!」
笑え、俺。
「、また旦那はそうやって無茶、ばっかり」
――自分は、ちゃんと笑えているだろうか。
この手は、無様に泣いて縋ろうとするこの手は、震えていないだろうか。
行かないでと口走りそうになるこの口は。
星がきれいで、
暑いぐらいの夜。
ねぇ、旦那 俺はね。あのときほんとうは、泣いてしまいたかったんだ。
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