うたかた 3 (佐幸転生パロ) (あの日、言えなかった言葉がある。) □□□■□□□□□■□□□■□□ じっとしていても汗ばむような陽気だった。 蒸し蒸しとして――死体はすぐに腐って異臭を放つ。 陣幕に彼の姿がなくて。 陣屋中を捜し回って、陣の外で彼を見つけた。 彼は星を見上げていた。 「旦那ー何でこんなとこにいるの?だめだよ物騒なんだから」 「あぁ」 気のない返事。 溜め息をついて側に控える。 星が降ってきそうな夜だった。 小さくなっていく陣の規模。 劣勢だ。当然だろう。 見知った顔がどんどん欠けていく。 (きれいな横顔。) この年若い主の、何かを見上げるときの顎の線がすきだった。 気付けば、指先が夏の暑さに逆らうように冷たくなっていて。 焦躁。 石をのんだような気分。 「…ねぇ、旦那」 あかい。 まぶしい程、生き生きとした人。 「へいわな時代に、生まれればよかったね」 どうしてだろう。 どうして、こんな人がこんな時代に生まれてきてしまったんだろう。 もっと、もっと楽しくて、しあわせな人生が似合う人だったのに。 確信が、ある。 別離 (ねぇ、旦那。どうして、こんな時代なんだろうね) 殺して、殺して、殺されて。 そんな、 己の死の予感より、あなたを失う確信の方が恐ろしいのに。 笑って欲しい 幸せでいて欲しい だからどうか、生きていて その声なら届くから あなたが呼んだら聞こえるから いつだって、 どんなときでも会いに行くから ねぇ、旦那 「なんだ。そなたそのようなことを考えていたのか?」 顔は空を見上げたままだったけど、その声はいつも通りで。 「確かに――忍としての人生は穏やかではないなぁ」 ―――どうして、そんな 「ち、がうよ。俺じゃなくて、旦那だよ」 「俺か?俺はけっこう幸せだぞ?」 幸村が、こちらを向く。 ふっと。 自信ありげに、生き生きと。 悲しみもよろこびも全て飲み込んだような顔で、 笑った。 「一番駆けは渡さぬぞ、佐助!」 笑え、俺。 「、また旦那はそうやって無茶、ばっかり」 ――自分は、ちゃんと笑えているだろうか。 この手は、無様に泣いて縋ろうとするこの手は、震えていないだろうか。 行かないでと口走りそうになるこの口は。 星がきれいで、 暑いぐらいの夜。 ねぇ、旦那 俺はね。あのときほんとうは、泣いてしまいたかったんだ。 [*前へ][次へ#] |