novel
買い物帰り 上
「泓一さん」
低い橋の上で、僕は泓一さんと出逢った。
僕は趣味で使う物を買った帰りで、彼は友人か何かと散歩をしている風だった。
泓一さんは不意に滑り出した僕の声に気付いたらしく、その傍らの人から僕に視線を移した。
「あ、琢人」
「知り合いか?」
泓一さんが僕の名を口にすると、傍らの人は彼に尋ねた。
「ああ、同僚だよ」
そう答えると彼はばつが悪そうに眉の側を掻いた。同居して居ると言ったら誤解を招くに相違ないと思ったのかもしれない。
「ふうん。おれは宇多川(うたがわ)、緑川の友人です」
宇多川と名乗った人は少し笑んで自己紹介した。
「僕は泓一さんと同じ研究所に勤めてます、鈴木です」
僕も自己紹介する。
「あ、そんじゃオレは失敬するよ」
泓一さんは宇多川さんに言うと、僕の側に駆け寄って来た。
宇多川さんは泓一さんの気まぐれに慣れているのか、適当な相槌を打って帰って行った様だった。
「お前は相変わらずおずおずしているな」
泓一さんはため息をつく様に言った。
「僕ですか?」
「琢人の他に誰が今オレと歩いてるんだ」
僕は自分の爪先に視線を落とした。
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