novel 買い物帰り 下 「おずおずとした男は嫌いですか?」 「はっ!?な、何を言ってるんだお前は」 気まぐれに尋ねると、泓一さんは慌てた様に言った。顔の色は蒼とも朱とも決しがたい。 「気まぐれですよ」 「…あのなあ」 「ガッカリしました?」 「だ、誰が!」 「泓一さんの他に誰が今僕と話しているんです」 「…さっきの仕返しか?」 「はい」 泓一さんは頭をクシャクシャと掻いた。 「…そういえば、お前買い物の帰りか?」 「はい」 「何を買った?」 「趣味で使う物を」 「見せて」 「どうして?」 「理由がいるのか?」 「知りたいんです」 「…知りたいの?」 「だって大した物は無いんです」 「それでも気になる」 「…アンタ、その辺の女より執こいですよ…」 引き下がっては呉れない様子の同居人に僕は根負けして風呂敷を渡した。 「木の板…?」 「それを弄るのが僕の趣味なんです。泓一さんの机の傍らにある引き出しも、寮の郵便受けも僕が作ったものなんですよ」 風呂敷の中の物を見て驚く泓一さんに僕は言った。 「凄いな」 「趣味で自動動物を作る人に言われても、そう嬉しくはありませんよ」 妙にのんきな時間の中で、僕の皮肉は夕日に吸い込まれて行く様だった。 [*前へ] [戻る] |