たいせつなもの


「は〜、疲れた〜、お腹空いたねえ!」

 外は暗闇に包まれていた。月と星の光のみが光源のような暗闇。その中で一際明るく人口の光が漏れている窓があった。
 そこはとある学校の、恐らく部室であろうプレハブだ。そこからは少しだけ賑やかで、少し疲れたような声が響いてくる。

「ねー、ケンジ〜、この後何か食べに行かない? ショーもシゲも行こー」

 その中の一人が明るく言った。彼は快活で、少し幼さが残り、青年というより少年という形容が似合う。

「ショウリ……」

 と、眼鏡をかけた端正な顔の青年が少々呆れ気味に答える。

「行くー! ……あれ? シゲは?」

 次にまた、少々幼げで、短い茶けた髪の少年が答える。シゲと呼ばれる青年を探すかのように周りを見渡した後、首を傾げた。シゲと呼ばれる青年が彼には見つけられなかった。

「シゲなら帰ったよ」

 そこで切れ長の目の青年が、攻撃的だがどこか優しげな声で答えた。

「マッキー……」

 茶けた髪の少年が口から漏れたというのが相応しい声で言う。

「え? シゲ、帰っちゃったの? 残念……」

 一番初めに彼らを誘ったショウリと呼ばれた少年が肩をたれさせながら言う。傍目にも残念さが伝わってくるそれは、まるで無垢な少年を残していた。

「そう言えばさあ、シゲ、最近帰るの、早くない?」

 茶けた髪の少年が誰にでもなく誰かに問い掛けをした。

「そうだな……。確かにあいつ、最近帰るの、早いよな。……そうそう、ここ数ヶ月くらい、いつからだっけ?」

 眼鏡をかけた青年がどこともつかない視線で天井を仰ぎ言う。

「三月頃から」

 マッキーと呼ばれた青年が、また簡潔な回答をする。

「課外のあたりからだっけか?」
「うん」
「……あれ? その頃って……」

 眼鏡をかけた青年と、切れ長の目の青年の会話だ。そこで溜め息にも似た台詞を口にして、感慨深げな表情で、二人の会話は止まった。部室にいた全員が、その頃を思い出す。

「……そっか、あの時か……。シゲの奴、あれから少し……」

 眼鏡を直しつつ、青年が言った。



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