彼の家


 朝も早い。空が白みきってきた頃だ。日が霞んだ空を光で埋め、空の青は色鮮やかになっていく。

 その空の下、慌ただしい声が聞こえてくる。伝統的な日本家屋。木造二階建ての瓦屋根。広めの敷地には小さめの日本庭園。池の水はとても冷たい光を空に返していた。
 その家の離れに続く縁側を、和服を着て雑巾の入ったバケツをもつ若い女性と、眠たそうなまなこに眼鏡をかけた少年が歩いていた。二人はとても綺麗な黒髪に透き通るような肌を持っている。

 と、少年が体を震えさせながら女性に向かって口を開いた。

「寒いー。今日、何度だって?」

 彼の口からは白い息が吐かれる。それがまたその朝の寒さを物語る。

「うーん、最高気温は7度かしら? よく覚えていないけれど……」

 女性は和服の裾を全く翻さずに前に組んだ手を全く動かさずにはっきりと答えると変わらぬ速さで歩いていく。それを聞いた少年はその端正な顔をひどく歪めると、そのまま深いあくびをした。

「もう、賢次、いくら昨日も遅くまで部活だったからとはいえ、それはだらしがないわよ。あなたもわかっているでしょう? 今日は年に数度の――」
「わかっているよ、姉ちゃん……」

 彼女がそう言いかけると、彼はすかさずそう返した。もう幾度か聞かされているようで、彼はその顔をうんざりとさせた。



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あきゅろす。
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