緑色の猫と鯆


 病院の一室に二人は居た。寝たまま外を見る色白の少女。彼女の真白な腕を取り、何かをする白衣を着た男性。

「先生。先生は、何色が好き?」

 少女の其の声は擦れ、今にも消え入ってしまいそうな程か細い声だった。成る程、其れで其の病室の付近は元々静かな病院の中でも、取り分け静かなのだろう。もしも其の病院に不慣れな者が其の病室の前を歩こうものなら、其処に生きた人間が居る等、信じられもしない程の静けさで埋め尽くされていた。男性は其の静けさの中でも消滅してしまいそうな少女の声を細心の注意を払い拾い上げると、ゆっくりと顔を上げた。

「僕は、白が好きだよ。丁度、君の此の真白な腕の様な白さの、白が」
「ふふ、先生はそうやって何時でも私に話を絡めるのね」
「本当だよ。本当に、君の此の腕の白さは、好きなんだ。そう言う君は、何色が好きなんだい?」
「私は緑。若葉の様な緑。太古の森の様な緑。深い海の底の様な緑。緑が好きなの」
「そう、緑か。今の君には一番似合っている色だね。きっと、君の色白の肌には良く映えると思うよ。あ、そう言えば、数日したら新しい観葉植物を持って来ると看護師長が言っていたな。そうだ、その植物を借りて、写真を撮ろう。君の写真を」
「ふふ、素敵ね。じゃあ先生、其の時は私の隣に立って頂戴。一緒に記念写真を撮りましょう」
「ああ」



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