novel
桜だより[シュタ→?マカ]
「博士、桜って植物知ってますか?」
唐突に彼女は言った。
四月。
俺の教え子、マカ=アルバーンが日本を象徴する植物『桜』の話を彼女がしたのは、丁度その花が咲く頃だからだろう。
死武専のバルコニーで煙草を吹かしていたら、彼女が後ろから小走りでやってきて放った第一声がそれだった。
「知ってますよ。名前は。」
一応、先生ですからね、と少し笑いながら言ってみた。
最近の俺は、彼女を目の前にするとどうも調子がおかしい。
自然に笑えているような、けれど上手く笑えているか実感がないような。
俺の中で不確かな要素が生まれている。
「じゃあ、見た事は?」
「んー、興味が無かったので無いですね。」
この言葉を聞いた途端、マカがニカッと無邪気な笑顔を見せた。
その唐突な表情を見て、何故か俺の心臓が大きく打ち立てられる。
悟られてはいけないモノと認識して、表情にその変化が出ないように抑える自分が、
まるで俺自身が二人いるように思わせる。
「じゃーん!ママが送ってくれた絵葉書なんですけど、満開の桜で凄く綺麗なんです!」
この娘は、母親からの手紙一つでとても喜ぶ。
前は何ともなかったのに、最近ではその事に何故か少しイラッとするようになった。
「そうですか。」
あまり興味が無いような返事をしたが、本当は少し気になっていた。
マカが綺麗と言う、その植物はどんなだろう…
チラリと横目で見ると、彼女は笑顔で両手を伸ばし、葉書をこちらに見せていた。
その仕種が、眩しくて、綺麗で、目が焼けてしまうような錯覚を覚えた。
彼女を見ないように葉書に目をやると、
そこには桃色の花を咲かせた木々がたくさんあった。
「…葉が無いですね。」
「もうっ!そこですか?ふふっ。」
笑い声に反応して、またこの目が彼女を捉える。
大きく笑っていた笑顔が、大人びた微笑みになった。
このリアクションは、俺がこう返す事を予測していたんだろう。
…目が離せない…。
「この桜は、ソメイヨシノって言うんですっ。品種改良されて花が散った後に葉が出てくるんですよっ。」
「品種改良ですか〜。」
「はいっ、品種改良…って、そこはいいんです!」
あぁ…こんな他愛ない会話が、俺の心と体に心地よい熱を与える。
『温かい』
この表現がしっくりくる。
マカが葉書に目をやった。
「この場所、名所なんですよっ。皆で行ってみたいな〜って。」
「そうですね。」
…何だ…?
「でも、花より団子って言われそうです。特にブラック★スターに。」
「そう…ですね。」
何か…
「あ、シンメトリーじゃなかったらキッド君も文句言い出すかも。」
「ああ…。」
胸がざわつく。
「ソウルは喜ぶかな、うん、きっと―」
「俺と――」
「え?」
思わず口から出た言葉の続きを、急いで飲み込んだ。
「僕も行きたいですね〜、ヘラヘラ。」
「何言ってるんですか?」
本当だ、俺は何を言っているんだ。
何を言おうとしてるんだ。
「当然、博士も一緒に決まってるじゃないですか。」
「……っ?」
当然というマカの表情に、仕種に、
俺の全てが持って行かれる…
けれど、俺が言おうとした言葉が望んでいたのは…
「博士?」
「OK、絶対に行きましょう〜。」
「はいっ。」
「きっと、凄く綺麗だろうな。」
その木の下で微笑む君は…。
「はいっ、早く見たいな〜。早速皆に聞かなくっちゃ。」
「へ?」
「急がないと散っちゃう、それじゃ博士、失礼します!」
「あ、ああ…。」
マカは、来た時より早い足どりで校内に消えていった。
俺が…最初だったのか…
心臓が大きく早く脈を打って、痺れるような感覚に襲われる。
俺の口から零れた言葉の続きを、あの時止めていなかったら。
彼女の反応を想像しながら吸う煙草は、妙に美味かった。
『俺と二人だけで行こう』
後書き↓
3月だし、まだ寒い(涼しい?)ですが、桜の話を書きました。
絵葉書でしか出ていませんが。
博士が桜知らん訳無いだろう…とか思いながら見た事無い設定で、マカが日系という話も置いといて…はい、すみません。
…妄想の域を出ない…
恋に気付く瞬間も大好きです。やっほい!
こんな作品を読んで下さり
ありがとうございました。
[next#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!