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御礼記録
【現パロ】 その時、光を喪ったはずの片目が映したのは、鋼色に輝く優しい世界だったんだ。 【Dシリーズ】


俺、片倉景綱が今の会社に勤めるようになって8ヶ月が過ぎた。何だかよく分からないうちに強制入社させられた会社だけれども、D-modeはいつの間にか、自分の中でとても大切な存在になっていた。でもそれは、会社を心の底から愛している政宗様の笑顔を護りたいとか、不安を抱かせたくないとかそんな気持ちからきているような気もしていて微妙な心境になる。それでも大切なのだ、我が社が。政宗様は相変わらず謎の多い方ではあるけれども、一緒にいると自然に身体が動くようになってきた。







【その時、光を喪ったはずの片目が映したのは、鋼色に輝く優しい世界だったんだ。】







社にとって良くないことが続いていた。政宗様は平気そうな顔をしていらっしゃるが、実際は大変な事態に陥っている。
企画は我が社のような職種において、大変重要なものである。他社との差を付け消費者にアピールするため、企画等の内容は極秘中の極秘。社内でも限られた人間しか知らないということも多い。
しかし、何故か我が社の極秘文章が他社に漏れているのだ。ここ数カ月、他社に全面広告の先を越されたり、根回しによってイベント妨害を受けたり……挙げ句の果てには、先日新作デザインを盗まれた。


「政宗様、顔色が優れませんが…」

「ん?あぁ…少し寝不足でね。」


政宗様は困ったように微笑んだが、その疲労の色は隠しきれない。流石に新作デザインが盗作されたことには堪えたのだろう、透き通るような白肌の目元はうっすらと色づいていた。
キリキリと唇を噛むと、柘榴の実が弾けるような感覚と口いっぱいに鉄臭さが広がる。無意識に固く握りしめた拳は、血の気を失い白ばんでいた。重々しい社長椅子を軽く鳴かせ、政宗様は此方を向くと哀しそうな顔を一瞬見せて、俺の手を握る。


「傷がつくだろう…?ほら、会議が始まるよ?」


心配そうに顔を覗き込んでくる政宗様に優しく微笑んでから、本日の進行役に目配せをする。今回の全体会議出席者は、今政宗様が席に着いたことで全員揃ったらしい。小さな咳払いの後に、会議が始まった。
月に1回開催される全体会議は各部署の報告会のようなもので、代表者数名が参加する。政宗様のご意向で、オープンな雰囲気を重視しており、専用会議室は開放的な全面ガラス張りだ。社員は会議の様子をガラス越しに見学することも可能で、実際通りがかりに覗いていく者も多い。それ故、機密事項を取り扱うことはないが、社の全体像を把握するため、政宗様は必ず参加されていた。


「政宗社長、…実は本日、○○戦略における機密情報がK社に漏洩したと言う話が……。」

「ん…そうかい。」


会議も中盤に差し掛かった頃、広報部の担当者が言いにくそうに報告した。途端にざわめきが走るが、政宗様は顔色も変えずに淡々と頷く。担当者は漏洩してしまったことに責任を感じているようで、深々と頭を下げた。冷たい視線が突き刺さる中延々と頭を下げ続ける彼に、政宗様は優しく声を掛け、席に座らせた。まだ年若い彼の眼は潤んでおり、腰掛けた後もずっと俯いている。


「社長!やはり内通者がいるのでは?…わたくしにお任せ下さい!かならずや、」

「うちの情報が標的にされるということは喜ばしいことさ。それだけ他社に脅威だと思われている、ということだからね。」

ある重役はついに痺れをきらしたのだろう、怒鳴るように言い募った。彼はこの会社の立ち上げ直後から携わっている重鎮で、仕事にかける情熱は人一倍である。彼の言葉は、D-modeを愛する全ての社員が思うところであった。
しかし、政宗様は綺麗な笑みを浮かべると、口元に細白い指を遊ばせ、そう言った。それは一寸の隙もない優雅な動作だったけれど、それを定位置の斜め後ろから見ていた俺には演技だと分かってしまった。彼はとても動揺している…。その、青年にしては華奢で儚い背中に狂おしい想いを感じた。


「…政宗様、御報告が御座います」


出来る限り凛とした声を出すように心掛け、政宗様に対して軽く頭を下げる。伏せていた瞳を上げた瞬間かち合った隻眼に、胸の奥が苦しくなった。


「景綱?」

「まず、本日漏洩致しました機密情報は私がすり替えた偽物ですので、ご安心下さいませ。」


政宗様を安心させるように笑みを浮かべそう言うと、彼はきょとんとした顔をしてこちらを見る。瞬く金色はとても可愛らしくて、普段大人っぽい政宗様の年相応な表情が見れて、なんだか嬉しかった。


「……及川さん、」


俺は小さく深呼吸した。感情的になりそうな身体を必死に抑えつけ、冷静な口調を心掛ける。しかし鋭く睨みつける眼光は先ほど発言をした重役・及川に突き刺さったままで、緩めることは出来なかった。


「…及川さん、大変申し訳ないのですが周辺を調べさせて頂きました。どうして昨晩、社内に忍び込んだりなさったのですか?」

「…なっ!た、ただ忘れ物を、」

「深夜2時に?…仕掛けていた防犯カメラには、PCにかじり付く姿が残されていましたよ。」

「っ!!!」


明らかにしまったという顔をした重役に、内心ほくそ笑む。可哀想なくらい青く染まった顔を見ても、政宗様の心労を考えたら、全然可哀想だとは思えなかった。


「それに…使用していたPCを調べさせて頂きましたが、本日漏洩した我が社の機密ファイルをダウンロードした形跡がありました。…今回私が調べた全証拠資料がこちらです。」


持ってきてた証拠資料の束を政宗様に手渡す。ずっしりと重いそれは彼の罪を暴くには十分すぎる量で、10p程の束であった。バックアップは二重三重にしてあるので、今更隠滅されることはないだろう。
ぱちぱちと何度も瞬きをしながら、暫く茫然と成り行きを見守っていた政宗様は、その厚い資料をパラパラと捲ると小さく笑みを零した。そうして、俺を見上げ、満足そうに笑った。


「流石、私の景綱だな。」

「…はい。」


ーーーートキン。


胸が小さく鳴り、何とも言えない懐かしいような気持ちが心の中を満たしていく。政宗様のそんな顔を見たら言葉が詰まって、それ以外言えなかった。

俺達が何となく見つめ合っていると、予想はしていたが、重役が大きな声で反論を始めた。この場でしっかりと片を付けなければ、うやむやになってしまう可能性があったので、顔を引き締めて向き直る。


「そんなひよっこの言葉を信用なさるのですか?!…分かったぞ!社長、そやつこそ他社のスパイなのです!そやつはこのD-modeを没落させ、社長を……」

   『煩い。』


言い訳を募る騒がしい室内に、政宗様の心底煩わしそうな声が響いた。その音は明瞭な響きをもって、室内を一斉する。
俺は自分が声を出すより先に響いた政宗様の声に驚き、思わず彼を見やった。


「コレは、けして私を裏切らない。」


政宗様は深々と腰掛けていた社長椅子から僅かに腰を上げ、此方に腕を伸ばしてきた。ごく自然な動作で身を屈め、優しく細腰に手を添えると、艶やかさを含む仕草で首もとに腕が絡み付いてくる。
会議室にいる全社員が息を飲む音より大きく、政宗様が俺の右目に口付ける音が聞こえた。


「そして必ず私の期待に応えてくれる。…そうだろう?景綱。」

「仰せのままに、」


政宗様の熱が移ったのか、右目が熱く疼いた。瞬きをする度に、右目に映る世界が煌めく。何故かきらきらと輝く景色を眺めながら、俺は何となく、政宗様の様に綺麗な金色の瞳で世界を見たら、こんな風に見えるんだろうなと思った。
頬に柔らかい絹髪の感触を感じながら、重役が膝をつく音を聞く。でも俺は腕にある温もりと一緒にいると感じる不思議な感覚に夢中で、それどころではなかった。





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