loNG THE PRINCE OF TENNIS dreAM
0-5
そして、2人の試合は始まった───
「ワンセット・マッチ 桃城vs羽山 桃城・トゥサーブ」
桃城はゆっくりとボールをつく。
その間も、藍羅をじっと見据える。
藍羅はラケットを構える。
「先輩!」
『?』
「俺、本気でいきますから!!」
『っ!!!………
えぇ。いいわ』
シュッ─
桃城がボールを高く上げた。
バシッ─!
ラケットで強く打ち付ける。
タッタッタッタッ─
パコーン
それを藍羅は難なく打ち返す。
「くっ…!」
パコーン
『っ…!』
パコーン
どちらも全く譲らない。
桃城がサーブを打ってから、すでに10分近く打ち合っている。
パコーン
パコーン
パコーン
パコーン
だが、ついにラリーが終わった。
バシッ──
「なっ…!!」
桃城のコート内に入った。
つまり、藍羅の点だ。
「0-15」
不二が得点をコールする。
「結構強いんスね」
『こっちのセリフよ』
再び、桃城がサーブを打つ。
パコーン
藍羅はそのボールを追いかけて打ち返す。
パコーン
パコーン
パコーン
またラリーが続く。
だが、今度はさっきよりも短く終わった。
点を入れたのは、また藍羅だ。
「0-30」
「くそっ…」
『…………』
桃城がサーブを打つ。
それを藍羅が返す。
…ここからは、その繰り返しだった。
だが、点を入れるのは藍羅ばかり。
桃城は、自分の持つ力を精一杯出して、必死でラケットを振る。
得意なダンクスマッシュも打った。
なのに藍羅は、それを難なく打ち返してしまう。
自分の得意技をこうも簡単に打ち返されては、プライドが丸つぶれだ。
だが、気づけば得点はすでに「0-5」。
次をとられれば、完全に負けだ。
─まさか
─藍羅先輩がここまで強いとは思わなかったぜ…
─動きも、ラケットの振り方も、まるでムダがない……
──もし俺が勝ったら、俺と付き合ってください!!───
………先輩との試合を始める前に、とっさに言ってしまった言葉だ。
─本当にそうなったらいいのに───
初めはそう思っていた。
綺麗だし、明るいし、話しやすいし。
“先輩”、“後輩”っていうのを気にせず話せる。
………最高じゃねぇか!
でも…
なんでかな。
あんなに、「本当に付き合えたら」なんて思ってたくせに、今はそんな気がしない。
勝ちたい。
勝って、先輩と付き合いたい…!
……って思ってたけど、今は違う。
そりゃあ、勝ちたい。
試合だもんな。
でも…
なんか違ぇんだ。
「付き合いたいから勝ちたい」とか、
「かっこいいところ見せるために勝ちたい」とか、
んな余計な思いはない。
今はただ純粋に、
───「勝ちたい」───
ただ、それだけ。
先輩と試合をするうちに、何の理由もなく、ただただ「勝ちたい」と思えるようになっていた。
そしてそれと同時に、「楽しい」と思った。
今まで、こんな感情をもったことなんてなかったのに。
──嬉しかった
大好きなテニスが、さらに大好きになれたような気がして。
テニスに、また一歩近づけた気がして。
──俺、今なら言える
「先輩!!」
『…?』
「俺…」
『………』
「俺、
勝ちたいッス!!」
『…………………
っ…えぇ、分かったわ。
…全力で来なさい!!』
「先輩…」
『私が、全部受け止めてあげる』
「!!!……………(ニッ)
ウッス!!」
桃城がサーブを打つ。
藍羅はまたそれを打ち返す。
だが、今度は今までのようには進まなかった。
…桃城が食いついてきたのだ。
今までに戦ったことのない、よく分からない強さをもった、藍羅。
彼女に出会って、彼──桃城の純粋な「勝ちたい」という気持ちが、一気に大きくなったのだ。
桃城は、今までにない苦痛を感じていた。
─自分の技が決まらない
─まったく点がとれない
だが、それと同時に、今までにない幸せも感じていた。
─勝ちたい
─その言葉が、頭の中で響きわたる
─何の理由もいらない
─ただ「勝ちたい」
─それだけだ───
そう思えることが、桃城にとってとてつもない幸せだった。
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