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NOVEL 天使の顎 season2 ジュブナイル編
1 *否定/NegativeGlorias*1
 setup,comprete/2046system/.

 to_level_2.

 acssess_NG/tirol/BC.
 acssess_NGD/takurou/SIVA.

 drive,angel_a_broach/saeson2......

 ――アクセスを開始します。









 重々しい機械のモーター音が部屋いっぱいに響いた。
 薄暗い部屋の両脇にはカーキ色の軍服を着た男たちが並んでいる。
 その腕章には十字をモチーフにしたマークの中心に”法皇庁”とかかれ彼らの胸には大きな金色の十字架が輝く。
 モーター音は暗い部屋の置くから獣の鳴き声のように響いた。
 法皇庁、それは宗教の総合でありそして、軍隊でもあった。
 十字架を掲げ、剣や銃を持ち、神の言葉を述べる最強の集団は公にはされずほの暗い中の活動をしている。
 本来の宗教の布教活動のほかに、武力行使を伴うものも存在した。
 彼らの任は”浄化”。
 世界にはびこる邪な存在の排除だった。
 人間に限らず、悪魔、亡霊、怪物、魔女、呪い……。
 それらがこの世で魔力を行使することがあれば法皇庁、浄化班が動く。
 法皇庁はどの国にもその権力を示し、どの国の治安も守る軍隊として機密にされ、しかし重宝されていた。
 だが、その慈愛と軍力の法皇庁が最も恐れていた男がいる。
 ゆっくりと部屋の奥にゴンドラが降り、その底が接続すると同時に蒸気があがった。
 誰もの鼓動が早まり冷や汗が流れるのを顔には出さず胸を張るが皆が皆、重苦しい空気に潰されそうになっている。
 ゴンドラには黒い影が一つ。
 闇に溶ける神父服に大きな金の十字架を提げた細身の男だった。
 その口が開かぬよう鉄のマスクをさせられ、その両手足が動かぬよう枷が付けられている。
 長めにのびた黒い髪の間からはアジアン特有のすっきりと鋭い顔が覗き黒葡萄のような双眼が鈍く光る。
 男が一歩踏み出せば鎖が鳴り、子供の頭ほどもある鉄球が転がった。
 軍服の男たちの前を神父が通る。
 その異質な神父が目の前を通り緊張が頂点に達する。そして過ぎると同時に失っていた意識を取り戻し息を整え始めた。
 神父は出口である開かれたドアの光に向かって歩き、不気味なほどゆっくりとドアをくぐって鎖と鉄球を鳴らしながら湿った廊下を進む。
 部屋を出たあたりから神父の左右を軍人が付き添い歩いた。
 じゃらりじゃらりと美しく束縛を奏で神父は鉄のマスクの中、舌で唇を濡らす。
 本来の柔らかさを取り戻した唇の両端を吊り上げ、獲物を見つけた獣のように微笑んだ。
 カビ臭い一本道の末、重厚そうな扉の前に出る。扉の前にいた若い軍人がそのドアを開ける。
 光が射した。強い日差しだ。
 眩しい。
 神父は目がくらんで顔を背ける。
 そのとき、若い軍人と目を合わせた。

「…………っ」

 言葉を失くしたのは軍人のほうだった。
 吸い込まれるような黒い瞳は間違いなく娼婦のような魔性の光を灯しており、総毛だった。
 悪魔の目だ。
 死んでいるのに魅力的な、強い眼差しだった。

「歩け」

「…………」

 両脇の軍人が警棒で神父の背を殴る。
 鉄のマスクの中で歯を食いしばり、彼はまた鉄の重りを引きずり歩いた。
 外は黄金の太陽と青い空が広がっていた。砂漠地帯だろうか、雲ひとつない青空で怒った太陽が大地を焼き地平線は頼りなく揺れている。
 じゃらりじゃらりとテンポよい鎖の音に誰も気がつかない。
 そんなものでは神父は捕らえられなかった。
 出口のすぐ手前に待機していたジープが二台と護送用車が一台。そして、その周りで軍人たちが銃を構え鋭い日差しに耐えている。
 神父が黙って護送用車に乗り込むと速やかに他の軍人もジープに乗り込んだ。
 戦車並みの装甲のこの護送車には、軍人が二人と神父が一人。
 両脇についた椅子には片方に細身の神父を、片方に大柄な軍人を二人のせ、わずかに傾いている。
 酷くスプリングする車体の揺れにもかかわらず、神父は目を閉じていた。
 だが、軍人二人は身を強張らせ、隙を作ろうとしない。
 彼を見張っているのではない。
 彼から身を守るための警戒だ。
 眠ったフリをしているがその神父は外の太陽のようにあからさまに無言の威圧をかけ、狙っている。
 気を抜けばすぐにでも飛び掛るような殺気を放ち神父は目を閉じてじっと待っている。
 獲物が疲れて諦めるのを。
 あらゆる希望を飲み込むその神父こそ、その悪意の導きこそ、次なる世界を貫く”希望”となる。


 この世には、見てはいけないものがある。
 この世には、踏み込んではいけない領域がある。
 古今東西のそれを全て、”魔”と呼んだ。
 人がそれを恐れる限り、”魔”は生き続け、”魔”がある限り、それを狩る者がいる。
 そうして彼らは”聖”なる力を手に入れた。
 しかし、その力は清きものではない。
 生きるための、至高で純粋、そして鮮やかなる強い感情の力なのだ。

                    *              *             *

 ――2009年。
 日本、東京。
 都心より少し離れた土地にあるその学園は朝から転入生の噂で持ちきりだった。
 転入生の噂でクラスがざわめくのはどこの学校でも同じなのだが、ここ、陰楼学園ではまた違ったざわめきがあった。

「可愛そうに、こんな学園に入学しちまって」

「すぐにでも消えちまうんだろうな」

「あの部にスカウトされなきゃいいんだけどな」

 そんな憐れんだ言葉の飛び交う朝だった。
 学園の周りは四方、森に囲まれ、細い獣道を渡らないと街には降りられない。
 全寮制で学園からの出入りが厳しいこの学園はまさに世界から切り離された密閉空間だった。
 広々とした校舎と、緑溢れる校庭、最新の設備が整った陰楼学園は表向きには名門の暮らしやすい学園といえよう。
 しかし、実態は真逆である。
 ここには、凶悪な能力を持った人ならざるものが集っていた。
 転入生が来ると噂になった二年B組は他のクラスよりもざわめきが大きかった。
 ごく普通の若者たちの朝。
 ごく普通の、黒板とたくさんの机の教室。
 そこに溢れる葬式のようなどんよりした哀れみの空気に嫌気がさす。 

「おはよう、チロル」

 クラスメイトに声をかけられてチロルは顔をあげた。
 目鼻立ちのくっきりとした金髪の少女、風見チロルは、なんでもこなす優等生で少々世間知らずなところがあるが誰からも頼られる人気者だ。

「おはよう」

 少し固い口調だが、たまに突飛おしもないことを言い、可愛がられてもいる。
 席についたままのチロルだが、いつの間にか回りに女子が群れ始め、好き勝手に話をしていた。

「転入生は男の子だって」

「じゃあ、魔女部には入らないのかな」

「バカ、魔女部だって男子いっぱいいるじゃん」

「どうしよう、怖い魔女だったら」

「かっこいい男の子かもしれないじゃない?」

「それいい! それがいい!」

 魔女部……。
 その単語をチロルは忌々しく思った。
 この学園には代々魔女部なるものがある。
 表向きはタロット占いや、西洋民俗学の研究をしている部活、ということになっているが、本来の活動は名前のとおりだ。
 魔女をやる部活。
 つまり、魔法を使って人を困らせることの出来る集団なのである。
 誰でも入部できるというわけではなく、入部試験というものがあって選ばれたものだけが魔女部に入り、さらに能力を高めることが出来るというのだ。
 それが魔女部である。
 魔女、といっても男子部員も多く、今ではそれが暴徒と化し、生徒や教師までもを震え上がらせる。
 魔女部の部員は魔法で報復をしたり、魔法で自分の思い通りにしようと横暴なマネをし、今では止められる人間は少ない。
 成績を悪くつけるとその教師をカエルにしてしまったり、喧嘩をしているクラスメイトを石にしてしまったり。
 最悪、殺してしまうケースだってある。
 それでも魔女部が何にも問われないのは、魔術で人が殺せるとはいえないからだ。
 それを理由に学園は魔女部を続行し、そこから悪しき魔女たちが世界に排出されている。
 唯一の救いは、魔女は保健室が使えないことだ。
 保健室にさえ逃げ込めば完全に安全であるが、一歩外に出れば惨状はかわらない。
 この学園で生き残るには魔女に目を付けられないように従うしかない。
 それがこの学園の暗黙のルールだった。
 皆が魔女に恐れをなしているこの学園にやってくるのは事情を知らないものばかり。
 その秘密を外に漏らそうというならまた魔女部に襲われる。
 黙って魔女たちに従えば無事に卒業出来るのだ。それまで我慢すればいい。
 それでやっていけるなら。

「ほら、お前たち、席につきなさい」

 転入生の話のためか、チャイムがなる前に担任の教師がやってきた。
 中年で白髪交じりのこの教師も魔女部に怯えながらの生活を強いられているのだ。

「はーい」

 騒ぎを起こせば魔女部が仕切りだす。
 生徒は淡々と人形のように授業をこなし、教師も授業のふりをして魔女部におべっか。
 牢獄のような場所だ。

「えー、この様子じゃあ皆も知っていると思うが、このクラスに転入生がくる」

 可愛そうに。
 チロルも心の中で哀れみを投げかけた。

「だが、ちょっと遅れていてな……」

 教師は心配そうに語尾を小さくした。
 この学園で遅刻は目立つ。
 しかも転入早々だ。
 噂が広まっていなければ教師も言わずに黙っていただろうが、どうしてか、都合の悪い噂の足は速い。
 後は魔女部が目をつけないのを祈るだけである。

「では、授業の準備をしたまえ」

 これ以上まっても仕方が無いと諦め、皆は授業の準備を素直にし始めた。
 もう一つ、遅刻にはケースがあった。
 学園の周りの森には獣人が住んでいる。
 元はこの学園の関係者らしいが魔女の呪いでモンスターに変えられてしまった生徒や教師が町に降りられず、学園にも入れず彷徨っている。
 それに襲われてボロボロになった死体を誰かが見たらしい。
 所詮噂なのだが、夜中になると狼のような遠吠えが聞こえるのは確かだ。
 周りの森に化け物、学園内に魔女。
 ここで青春を謳歌できた人間がいただろうか。
 死体が出てこないことを祈ってチロルは歴史の教科書を開いた。

「?」

 チロルが窓の外に目を向ける。
 何か耳に入ったのだ。
 気のせいか?
 いや、確かに獣の唸り声のようなものが聞こえた。
 昼間にはおとなしくして一切の姿も見せないというのに、今日はどうしたのだろう。

「どうしたの? チロル」

 隣の席の友人が心配そうに覗き込んでくる。

「いや、何でもない……」

 窓から目を離すことが出来ずに、しかしチロルは誤魔化した。
 だが、次の瞬間、誤魔化しきれなくなった。

 グルウウウウン……。

「……?」

 違う。
 獣の声ではない。
 エンジンをふかす音だ。
 エンジン?
 他の生徒のざわつき始めて皆が窓の外を見る。
 チロルもそれにならって窓際に身を乗り出した。
 すぐ下の白い校庭には黒の小型バイクが一台。
 エンジンを唸らせながら何かを待っている。
 そのドライバーはノーヘルメットに丸サングラスをかけ陰楼学園指定の制服の上に黒衣を羽織っていた。
 その黒衣……。
 教会なので見られる神父服だ。
 胸に光る大きな金の十字架。
 間違いない、神父だ。
 だが、随分と若いようでもある。

「何だ、あれ……!」

 しかも、その手には青く呼吸するように点滅する長剣が握られている。
 そして何かに気がついたのかバイクを片手で走らせた。
 その向かった先の塀から、大きな獣が飛び出した。
 誰かが悲鳴を上げる。
 バイクの神父は獣に突進していく。
 熊のように大きな獣。魔獣だ!
 赤い瞳に裂けた大きな口。
 かつては人であったが呪いによって獣に成ってしまった姿だ。
 殺すほかに救う手は無い。
 しかし。殺す方法は人類には無い。
 だが、神父は向かってゆく。

「…………」

 その神父の口が動いているのをチロルは見た。
 唇の動きを読んで小さく口にする。

「”我は御神の名において汝、卑しき悪魔を取り祓う”」

 それは悪魔祓いの時の言葉だ。
 彼は、神父ではない。
 エクソシスト……、いや、そんな生易しいものでも無い。
 古代より”魔”を破ってきた”聖”なる存在。殺戮を生業とし、十字架を掲げ、剣や銃を持ち、神の言葉を述べる最強の集団。 

「浄化班……!」

 カトリックにおいて最終手段ともいえるその戦士が魔女のいる学園にやってきた。
 嵐の予感を感じざるを得ない。
 獣人と神父が交差した。
 次の瞬間、獣人が砂になるように崩れていく。
 ”魔”は塵に帰る。

「…………倒した?」

 剣を構えたバイクが半回転し、静止する。
 その騎手がやっと剣を地面に下げると、剣先に触れた部分を中心に一瞬だけ、青白い魔法陣が浮かんだ。
 それは誰の目にも確認できるほど派手に光り、目に焼きつく。

「まさか、あれが転入生……?」

 男子生徒が呟き、どよめきが上がる。
 あんなものと同じクラスになったらクラスごと魔女に潰されかねない。
 もし、魔女部に入ってしまったらそれどころではない。
 どよめきが悲鳴じみたものに変わっていた。
 しかし、チロルの視線は遠く、神父にあった。
 そして、その神父のサングラス越しの視線も校舎の二階のチロルに向いていた。
 周りの音が聞こえないほどにらみ合う。
 チロルには彼が恐ろしいものだとわかった。
 そして、彼もチロルがこの世の者ではないことを知った。
 視線だけの戦い。

「…………」

 恐ろしく、目に力のある男だった。
 魅力的、絶対的、そして……。

「下劣な……」

 卑猥な魔道の光。
 舌なめずりをする唇。
 チロルは嫌悪感を覚えて視線を外した。
 整った顎のライン、男子と思えぬ白い病弱そうな肌。
 ただし、その気は生命力と傲慢に溢れている。
 どうしてこの悪魔が神父服など……。

「法皇庁も堕ちたものだな……」

 チロルはその呟きと共に窓の前を去る。
 そして、自分の隣の席が誰にも使われえていないことに溜め息をついた。 


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