唐紅に
7


 美形は危険。

 そのでっかい危険が目の前にいるのに、馴染みすぎて、うっかり看過していた。


「──…あー、その、トールちゃんたちも“無駄に顔の良い”部類、だよな…?」


 単純に顔の造作だけが基準になるなら加瀬は安全かもしれないけど、間違いなくトールちゃんは“危険”だと思う。
 案の定、金髪はぎくりと身体を強ばらせ、目を泳がせた。
 判り易い反応に苦笑が洩れる。


「俺たち、遠距離友情しましょうか」

「えぇっ! オレ遠距離やだ!!」


 遠回しの「近寄らないでね」宣言は即座に却下された。

 俺としては友達をやめると言わない分かなりの妥協案だったのだけど、トールちゃんはお気に召さなかったらしい。「絶対ダメ」と繰り返す。


「一緒にいよーね、って、ゆったじゃん。オレはだいじょーぶだよ? 危なくないよ?」


 今さっき「美形は危険」と教えてくれた本人から保証されても頷けない。


「コタ酷い!!」


 首を振って「信じられません」と主張した俺に、トールちゃんは大袈裟なくらい嘆いてみせた。


「いや、だって俺、目立ちたくないし」


 分相応に、地味に生きたいのだ。ただでさえ理想の新生活は出端で挫かれた感じなのに、これ以上の不安要素なんて増やしたくない。

 ところがそんなささやかな願いを、加瀬がそれはもう爽やかな笑顔で断ち切った。


「もう無理」


 何ですと?


「だってコタ、あの佐々木と西尾先輩を手懐けたんだろ? 寮長が爆笑してたぜ?」

「手懐け……や、それ誤解…」

「でも引率されてたろ。それだけで充分目立つって。つーか、何で目立ちたくないんだよ」

「え、……えーと、小心者だから?」


 正直に話して「変な奴」って思われたりしないか。気懸かりはそこで、やっぱり誤魔化してしまう。


「あり? そーなの?」


 テーブルの隅でいじけていたトールちゃんが、指先で「の」の字をしつこく描きながら顔を上げた。


「オレてっきり、人が怖いからだー! って思ったんだけどー」

「え…」

「あ。それとも“見られること”が好きくない? どーお?」


 言ってない。
 言ってないのにどうして。





「……それが当たりっぽいな」


 どこで気付かれたんだと動揺する俺の顔を見て、加瀬が確信したように頷いた。


「んんー、でもね、それでどーしてオレと“遠距離友情”するって話になるのー?」

「それは俺も気になる」


 見つめる彼らの目は、軽い口調とは裏腹に「絶対聞かせろ」と語っていて、その強い眼差しに俺は拒否する事も出来ずに息を詰めた。



 話したら協力してくれるのかな?

 地味ライフは手に入る?



 引かれて距離を開けられたら、それはそれで結果的に望む状態になるんだけど、俺は彼らと友達で居たくもある。


「ひ……引かない?」

「引かないよお。だいじょーぶ!」

「笑わない?」

「嘲笑はしない」


 しっかりと請け負ってくれた二人を前にしても尚、俺はまだ緊張していた。





 これを詳しく話すのは人生で二度目で、その最初の相手には、投げ遣りな勢いだけで口にした。きちんと説明しようとするのは今回が初めてだ。
 上手く伝えられるのか、手に汗が滲む。


「あの、すっごい情けない話なんだけど、」


 深呼吸をひとつ。
 細く出したはずの吐息が、いやに大きく聞こえた。


 

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