唐紅に
2
「でもコタ、ホントに順位落とさないでねー?」
一緒になってへらへら笑っていたトールちゃんは、緩んだ顔のまま言った。
「あー、ね。けど今回はまぐれだし、次はわかんないよ」
俺も調子を合わせて返す。
爺ちゃんは間違いなく俺の成績を確認済みだろうから、極端に順位を落とすと怒られる……というか激しく揶揄われ続けるんだけど、俺の希望は学年40位前後だったりした。多分これくらいの成績ならクラス決めにも影響ないし。
最初はそこそこで、そこから徐々に上げていけば、努力してるって感じがするし。爺ちゃん対策にもなるよな。
うん。
次は40位を狙ってみよう。
ちょっと打算的なことを考えていると、トールちゃんが「ダ、メ!」と頬を膨らませた。
「コタは絶対10位以内! コレけってー!」
「や、決定じゃないでしょ」
実力で楽勝ならともかく、本気で勉強漬けにならないと俺の一桁維持は難しい気がする。予習復習くらいはするけど、当分勉強漬けは遠慮したかった。
ところが無理だと否定する俺の返事を、トールちゃんは否定した。
「ダメだよお。それこそムーリー! 上位部屋に居てくれないとオレが行きづら……っあぁ!」
「……今度は何」
「ねぇねぇコタ、キレーなおねーさんは好きですか?」
突然叫んだかと思うと、金髪は真面目な顔になった。……それにしては質問がアレなんだけど。
何だかCMのキャッチフレーズみたいな科白だ。聞き覚えがある。
「……綺麗なお姉さんも、可愛いお姉さんも好きですよ」
真面目な表情と揺れるチョンマゲ前髪がミスマッチで、ちょっと笑ってしまいそうだった。
「じゃあねぇ、キレーなおにーさんは好きですか?」
「はいはい。綺麗なお兄さんも、格好良いお兄さんも好きですねー」
容姿の良さは一種の才能だ。努力すれば誰だって磨かれるけど、元の造作の差は埋めようがないと思う。
人として惹かれる部分って、決して外見だけじゃない。中身が自分と合わないなら、どんな美人でも近しくはなれず、観賞物の域を出ないんだけど。それでも本当に綺麗な人には、老若男女を問わず人を惹き付ける力があるんだ。
それをよく知っている俺は躊躇いなく肯いたのだけど、トールちゃんの想定していた答えとは違ったようだった。
物凄い勢いで瞬きを繰り返している。
「……? 目の保養になるよね。美人って」
「え、あ、あぁー…何だ、そっちかぁ」
他にどっちがあるんだ。
首を傾げる俺に気にするなとでも言うように手を振って、トールちゃんはもう一度きりっと顔を引き締めた。チョンマゲがぴょこんと揺れて──ああ、やっぱり笑えるなぁ。このミスマッチ。
「あのね、外部生のコタに、ゆわなきゃいけない事があります」
「はい」
何でこんな髪型にしてるんだろ、勿体無い。
トールちゃんは表情を改めると、整った造作がはっきりする。その大人っぽい顔立ちに似合った言動を取れば、もっと格好良さが増すのに。
「このガッコ、純粋にヘテロセクシャルな人って少ないのね」
「ふーん。……ふん?」
そうすればヒロム君とまではいかなくても、樟葉(クズハ)と張るくらいの色男になると思うんだよね。
ああでも、このキャラがトールちゃんの個性なんだろうしなぁ…。
などと考え、まともに話を聞いていなかった俺は、一拍遅れて理解した内容に、間抜けな声を出した。
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