唐紅に
事情と実情
明芳は成績順でクラス分けされる。だから自分が2組だと聞いた時、ひとクラス30〜40人だとして、最低でも80番以内くらいには入れたんだなと喜んだ。
だけど、4位というのは予想外だ。
「あのね。1、2組ってゆーのは学年50位までがごちゃ混ぜの、文理で分けられた特進クラスなのね。ちなみに寮のこの一角が上位部屋だってのは周知の事実だしー、コタが成績上位者だって、皆解ってるよん?」
目を丸くした俺に、トールちゃんは「50位までは順位が公表されるしねー」と笑った。
「うっそ…」
「ホントー。だからオレ、コタの部屋知ってたんだもん」
クラスも公示される成績発表で、部屋割りも簡単に予測出来たのだという。
俺は隣室だし、てっきりネームプレートで見知ったのだと思っていた。
「それにね、外部生ってどんなに頑張っても3組が限界ってジンクスがあるんだけどぉ、コタの場合はイキナリ総合4位で2組配属でしょ?学校中の注目株だったりしてー!」
「ま、マジで?」
「うん。ホント。きっとガリ勉だー、根暗だー! って、みんなでゆってたんだよぉ。でも噂のコタを見たら、みんなもっと騒いじゃうかもね」
にこにこと、悪気なく言われた言葉なんて、殆ど耳に入らなかった。
「うぁぁ…サイアク……」
何が何でも合格しなきゃと必死になった猛勉強の結果に俺は呻いた。叶うなら半年前の自分に「勉強はほどほどにしとけ」と言ってやりたい。
ああ、俺の地味ライフが……
考えると、全身の毛穴が開くような嫌悪感が湧いた。
知らないところで知らない人たちが俺を知っている。
それは物凄く困る、怖いことだった。
これが他の学校なら、優良な成績を取ったことなど些末事だ。すぐにもっと話題性の高いものに紛れるだろう。
だけど成績が偏重されるというこの学園で、いきなり一桁に食い込む事がどれだけ人の興味を掻き立てるか。それは容易に想像出来た。
「外部生だから」の理由だけでなく名前を知られるだろう。自覚していた以上に衆目を集め易い立場にいたことに、目眩がした。
「……顔色悪いけど、だいじょーぶ?」
目の前にあった指の背がこめかみを拭って、それで自分が汗を浮かべているのだと知った。気付いてしまえば背中にも汗が伝う厭な感触も感じてしまい、鳥肌が立つ。
そっと額を撫ぜられて目線を上げると、気遣わしげに眉を寄せて覗き込んでいたトールちゃんと目が合った。
「平気。驚かせてごめん。俺、緊張しやすくてさ」
心配されるのは苦手だ。
「成績良すぎて、ビビった」
だから、俺はトールちゃんを真似て、へらりとした笑顔を作った。
トールちゃんは俺の拙い言い訳に一瞬目を見張る。が、すぐにぷっと噴き出した。
「そこは喜ぶトコロでしょー!? コタってば変なのー!」
変でも何でも、この話を流してくれたらいい。さすがに初対面──それも同年代──の相手に、易々と自分の弱い部分を曝すのは抵抗があった。
いきなり「俺、目立ちたくないんです」なんて、一歩間違うと自意識過剰な発言に取られかねないし。
出来るだけ波風立てず、目立たずにいきたい俺は、笑うトールちゃんに合わせ「変じゃないって」などと表面だけの文句を述べ、へらへらとしていた。
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