唐紅に
3


「キレーなおにーさんは目の保養以上にはならないんだよね? えっと、コタはヘテロで良いんだよね?」

「ヘテロって異性愛者?」

「そー。ねぇ、同性にそーゆー興味を持った事ってある?」

「あぁうん。考えた事ないね」


 白状してしまうと、俺が誰かと恋愛する、それ自体考えた事がなかった。

 そりゃ「高校生になったら彼女出来たりするのかなぁ」とか思わなくもなかったけど、受験勉強に追われていたし、周りにはモテ男が揃っていた。俺にとって恋愛はずっと、自分とは縁のない事柄だったのだ。だから自分の嗜好がどうだとか、正確には判っていないと言うべきかもしれない。



 俺の中の他人との関係性は、未だに最上級が友人で、別枠に家族があるだけ。



 ──こう考えると、俺って随分ガキかも。

 でも、誰かに恋愛感情を向けられる──または自分が向ける──状況は、想像出来なかった。それが男でも、女でも、だ。


「恋愛とか、すごい他人事って感じだしなぁ」


 仲の良い人たちがアレだから、結構、耳年増な自覚はあるんだけど。いやあれは本当に、門前小僧なんかじゃなくて、耳年増と表現したくなる知識でした。


「恋愛とはちょっと違うんだけどぉ……。んー、でも、似たよーなもんかぁ」

「え、」

「だからね、男どーしでイチャコラしてんの見ても、ビックリしちゃダメだよお? 慣れた方が早いかんね」


 軽やかにウィンクをひとつ。
 こういう仕草も様になる金髪は、固まる俺を笑った。


「えー……」


 山奥の男子校でホモばっか。しかもそれがオープンな感じっていうか、当たり前になっているというか。トールちゃんの口調には、そんなニュアンスがあった。

 同性愛というのは普通、割とタブー視されるものじゃなかっただろうか。同級生が揶揄い混じりに「おまえホモかよー!!」なんて囃し立てるのも聞いたことあるのに。
 同性しか存在しない環境だと否定する人もいないのかな。



 だからって。

 男同士で恋愛、ねえ。



 自分でも貧困だとは思うけど、恋愛に無縁だった俺のカップルイメージは、砂浜で追いかけっこしながら「うふふ」「あはは」言ってるアレだ。うげろ。

 砂を吐いてしまいそうな薄ら寒いそれを男同士でやってると想像しかけて……止めた。
 うん。実に寒い。そしてしょっぱい。マスター、男子校は本当にしょっぱいです。凄いよマスター。予言大当たり。


「ねぇねぇ、トリップしてるとこ悪いけどー」


 いやでも待てよ、恋愛は自由と言うし、一方的に嫌悪するのは失礼か。周りが同性愛者ばかりだろうと俺に害がなければ問題ない訳だし。その中にいい奴だっているはずだ。

 共感出来なくても、理解しようとする努力が大事。うん。


「ねぇってばー」


 ぐるぐる考えていたら、トールちゃんに袖を引かれた。


「ん?」

「やっぱりさー、そゆの、引いちゃう? ……ケーベツとか、する?」


 緩いのに、何となく苦いものを含んだ口調だった。ふと、思う。

 トールちゃんも?

 内部生のこの金髪も、男に惹かれたりするのだろうか。可能性は高いだろう。途端に座る距離の近さが気に掛かった。
 ──でも。


「軽蔑しないよ。引いてもいない。……そりゃ、驚いたけど」


 だって俺はトールちゃんが嫌いじゃない。スキンシップ好きには呆れたけど、親しくなれることを期待してる。親切で人懐っこい金髪の性癖がどうであれ、学園での初同学年の友達だ。軽蔑なんて、出来ない。


「何だろ。カルチャーショックってこれかー! って気分」


 や、文化の違いは、今日1日で山盛り体験してるけど。

 明芳は異界、俺は珍獣。この呪文で大抵の事は流せちゃいそう。


「……よかったぁ…」


 トールちゃんが安心したような笑顔になる。彼の周りだけ、きらきらと空間が華やいだ。

 おお、美形パワー。



「ね、コタ。オレとお友達になって下さい」


 威力あるなぁと感心する俺に、トールちゃんは生真面目な顔で片手を差し出した。


 

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あきゅろす。
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