牙ナシ
カランカラン…と、瓶の蓋が落ちる音。
床に散りばめられた白い結晶が部屋の電気に反射してキラキラと輝く。
目の前には倒れ込むように、私の頭と腰を手で支える悠くんの姿。
滑って転んだはずなのに、痛みがあまりないのは悠くんのお陰だと理解した。
「…っと、大丈夫ですか?」
「…っ」
私たちの距離は凄く近い。
綺麗な目。悠くんの茶色くて透き通るような目に見つめられると、時が止まった様な感覚に陥る。
「あの…どこか痛いですか?」
「えっ!?あ、へ、平気!!」
見つめていたのが恥ずかしくなり、顔を背けた。
目に入ったのは、コロコロと転がる大きな牙。
私は悠くんの口元を横目で見た。
「牙…とれちゃったね」
「え?…あ、本当ですね」
牙なしのドラキュラ…
「うん、それもいいっ!」
「へ!?」
「…なんでもないデス」
あぁぁぁぁ…また口に出してしまった。
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