接触
「北条くん」
ギャーギャーと騒ぐ和緋たちを眺めていると、後ろから声をかけられた。
「的場」
「久しぶりだね、覚えていてくれたんだ」
嬉しいな、と言ってはにかむ的場に、周りの生徒は顔を赤らめる。
的場は中等部2年の時のクラスメイトだ。
連夜と知り合って間もない頃、授業ノートを抱えながら俺の所までやってきて、おどおどした態度で小さく口を開いた。
「あのっ…僕に勉強を教えて…くれませんか…?」
「……良いけど」
「っ!ありがとう!」
初めて話した、そのクラスメイトは分かりやすくパァッと表情を明るくさせて俺の前へ座
った。
編入してまだ間もないが、俺はクラスでもかなり浮いている事に自分でも気が付いている。
目の前にいるクラスメイトはどう見ても普通の奴だ…俺と居たらきっと妙なことを言われるだろう。
現に、周りの奴らはチラチラとこちらを見ては何やら小声で話していた。
面倒に巻き込まれる前にこいつを離した方が良いのだろうか…
「…お前、俺なんかに教わらなくても頭いいだろ」
「えっ…いや、えと…僕はただ…君と…そのー…」
「?」
それとなく遠回しにその旨を口にすると、そいつは顔を赤らめてモゴモゴとしゃべり出す。
何を伝えたいのか意図が全く読めずに首を傾げる俺を見て、今度は俯いた。
「な、何でもない…気にしないで北条くん…」
自信の無さそうな声に不安そうな表情。
俺の記憶にある的場と目の前にいる的場は同一人物とは思えない程に変わっていた。
髪型もそうだが、顔つきや雰囲気もまるで別人のようだ。
「お前こそ…元気だったか?」
俺は正直、戸惑っている。
「うん!ふふっ…本当に久しぶりだね。でも驚いたなあ…」
「?」
「北条くん、なんだか雰囲気が変わったみたい」
(いや俺に言わせればお前の方がすげえ変わりようだぞ)
明るく笑顔を浮かべてはいるが、どこか違和感を感じる。
…瞳が笑っていない。
「おい」
ふと、聞きなれない低い声が俺の横から割り込んできた。
声の主へ顔を向けると、グラスを持った連夜が的場を睨みつけている。
「…連夜?」
俺が怪訝そうに呼びかけても、連夜は的場から視線を外さない。
あんな表情の連夜を見るのは久しぶりだ 。
何が原因かは分からないが、どこから見ても…かなりキレている目だな。
さっきまで飯に夢中だった和緋たちも、騒ぐのを止めて連夜と的場を眺めている。
「…克海くん。何か用?今は北条くんと…」
「ツラ貸せ。的場」
的場の台詞を遮り、持っていたグラスをテーブルに置いた。
険しい顔つきや粗暴な言葉使いとは裏腹に、その動作はやけに落ち着いていて、逆に怖い。
その様子を見てため息をついた的場が苦笑しながら俺へ向き直る。
「ごめんね北条くん、また話そうね。今度は2人で、ね」
「あ、ああ」
思わず頷いてしまったが良かったのだろうか…
連夜は俺の方を見ようともせずに、的場を連れ会場から出て行った。
残された俺たちは何とも言えない気まずさ を漂わせ、無言で肉を口に運んだ。
(…美味い)
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