息の合う犬猿の仲。 『皆さーん!コンニチハー!留学組の3人目、西城テオドール・ダランベールでーす!』 遅れてやってきたセクハラ野郎がマイクを持って耳を塞ぎたくなるほどの大声で叫ぶ。 それに釣られて会場の奴らも何故か盛り上がり始めた。 アイドルのライブ会場かここは。 『テオって呼んでくだサーイ!!』 「「――っ!?」」 『……?』 バサッとノリノリで黒マントを剥いだ瞬間、俺や日比野たちを含めたほぼ全員が絶句した。 急に静かになった原因が分からずに、西城が首を傾げながらこちらを見る。 「…………か、和緋…?」 いや違う。 そこにいるのは和緋ではない。 だが信じられないほど似ている。 和緋が金髪にして碧眼になればこいつになるんじゃないか、と思えるくらいに。 「かっこいいいいいい!!!」 「峰岸様が二人いるみたーい!!素敵ー!!」 「テオ様ああああああ!!」 今まで1番の歓声が上がり、西城はにこにこと愛想を振り撒きながら手を振っている。 「すみません、あのお調子者が…」 「…いや。気にしていない」 申し訳なさそうに織原が頭を下げてきた。 俺がそれに短く返すと、端正な顔を綻ばせ良かった、と安堵の息をつく。 その後ろから視線を感じ、的場へ顔を向けるが、奴は既に別の方向を見ていた。 (………) 「それにしても本当に似ていますね、彼」 「気味が悪いくらいにな」 「棗、そんな風に言っては……っ!」 日比野を咎めようとした鳳の言葉が不自然に途切れ、その後ろに西城が見えた。 何してんだこいつは。 「うーんこの学園のべっぴんさんはみんなステキですね〜」 恍惚とした表情を浮かべ、西城は鳳の尻をじっくりと触っていた。 …和緋と同じ顔で鳳にセクハラしてるとキツイな…絵面的に。 「よくも…っ!」 「おっとっと〜危ない危ない〜」 すかさず鳳が振り向きざまに手刀を出すが、ひょいっと躱される。 やっぱりこいつ、喧嘩慣れしてやがるな。 「やあ、また会ったネ。さっきのべっぴんさん」 碧色の双眸が俺を捉え、口元が弧を描く。 二度も喰らってたまるか。 俺に向かってくる、すんでのところで西城の両手首を掴み上げると、奴は大きく目を見開いた。 「っ!むー…アナタは一筋縄ではいきませんネー」 「お蔭様で」 ぎぎ…っと力を込められるが、俺も負けじと押し返す。 周りから見たら可笑しな光景だろう。 「こらテオ!失礼なことをするな!テストがあるんだぞ!」 「こら楓。喧嘩ならテストが終わってからにしろ」 「「…………」」 西城は織原に首根っこを引っ張られ、俺は藤に後ろから持ち上げられた。 高校2年生にもなってこうも軽々と持ち上げられるなんてかなり屈辱的だ。 藤め…わざとか。 「降ろせ、藤」 「何だ、照れるなよ」 「照れてねえ!」 すとん、と降ろされ、羞恥から顔に熱が集まったまま藤を睨みつけると、嬉しそうに笑顔を見せた。 それを直視したのか、あちこちで人の倒れる音が聞こえてくる。 (……これだからこいつはタチが悪いんだ) 「あいつには絶っっっ対に近づくなよ楓!」 留学組の紹介が終わり、和緋たちの元に戻った俺に対する開口一番がこれだ。 少しいなかった間に一体何があったのやら。 和緋だけではなく、連夜や柚たちまでもがピリピリとした空気を纏っている。 「…あいつって」 「決まってんだろ!あそこでヘラヘラしてる俺の顔をパクった野郎だ!」 いや別にお前の顔を真似した訳じゃないと思うが、そう思うくらいに似ているのだから仕方ないか。 「まあでも、あっちのが賢そうだよな」 チワワに囲まれにこにこしている西城と、俺の目の前で眉をつり上げている男を見比べながら率直に述べると、和緋の動きが鈍くなった。 「なっ…!?おま、え…!」 「「「ぶふっ!」」」 「くくっ…全く、だな…っ…」 先程まで怒気を漂わせていた連夜たちが同時に吹き出し、日比野が肩を震わせる。 あれ、何かみんなのツボに入ったのだろうか。 「…か、楓さん?え?何?あっちのセクハラ野郎のが賢そうってどういう事?お前、俺よりあいつのが好みな訳!?」 「全く違う」 俺の肩を揺さぶる和緋をばっさりと切り捨てると、更に必死に縋り付いてきた。 「いやいやいや!俺のがイケメンだろ!?」 「………」 「無言で見るのやめてくんない!?せめて何か罵ってくれた方が良いよ!」 「…アホか。お前を雄豚だ色情魔だ罵って頭踏ん付けて尻をぶっ叩いても別に面白くねえよ」 やっぱ何もしないで下さいお願いします!と言って顔を青くする和緋は見ていて本当に面白い。 「楓先輩すごく生き生きしてる…」 「な、なんやろ…楓さんに豚とか言われて踏まれとんの想像したら不思議と胸が躍って…」 「戻ってこい岬!」 「おい!"そっち"に行ったら手遅れだぞ椎名!」 ガクガクと椎名を揺する藍原と康人に、柚はオロオロとしている。 お前らも見ていて飽きないな。 「?」 ふいに、スーツの裾をくん、と引かれた。 振り返ると、連夜が顔を俯かせている。 俺がジッと見ている事に気付いていないのか、その手は俺の服をしっかりと掴んだままだ。 「…連夜」 「えっ何?…あ、…」 声をかけると弾かれたように顔を上げ、服を掴む手をすぐに引っ込めた。 戸惑いに揺れる銀色の瞳を見つめると連夜は目を逸らす。 いつもならそのまま柔らかい笑みを浮かべていたはずだ。 (聞いてみてもこいつはきっと話さないな…) 何だろうか、と考えを巡らせていると急に背中が寒気立った。 「Bonjour!べっぴんさ…って危な!!」 「…チッ」 ほぼ反射的に裏拳を出すが、後ろから抱き着こうとした西城の頭スレスレで空を切っただけだった。 「おい貴様!楓に触るな!」 「オオッ!ここにもカワイコちゃん!あ!そっちも!」 「ひっ!?」 西城は青筋をたてて怒鳴る悠と近くにいた柚に鼻息を荒くした。 分かってはいたが、やはり賢そうに見えるのは外面だけらしい。 怯える柚を俺の背に隠すと、西城の目が細くなる。 まるで面白い玩具を見つけたように。 「ふふ〜やっぱイイね〜君」 長く、しっかりとした西城の指が俺の喉元をなぞる。 そのくすぐったい感覚から僅かに眉をひそめると、今度は楽しげに口角を上げた。 同じ顔をしていても、和緋とは似ても似つかない笑み。 あの阿呆が悪魔ならこいつはそれ以上に警戒すべき食わせ者だな。 「おいこら!俺と同じ顔で楓を口説くんじゃねえよ!」 「Quoi?同じ、顔?あははは!面白いジョークですね!僕はそんなに間抜け顔じゃないデスヨ〜」 「誰が間抜け面だあああ!!」 鬼の形相で和緋が突っ掛かるが、西城は全く気にせずに笑っている。 中々肝据わってるなこいつ。 「和緋。事実を言われたからってそう暴れるな」 「何でお前がトドメをさすんだよ!?」 「そうだぜ。本当のことだからって騒ぐなよ黒の悪魔」 「んだこら日比野てめえ!」 いつものようにメンチを切り合う二人の様子を見て、西城は首を傾げた。 「君たち兄弟?」 「「―っンなワケあるかっ!!」」 いや息ピッタリだぞお前ら。 [*前へ][次へ#] [戻る] |