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神様とその子供たち
003


僕はそのままセンリにナナから引き離され、引きずられるように部屋を出た。もう少しナナに話を聞きたかったが急ぎのようなので仕方ない。僕はゼロを抱いたまま早足でセンリの後についていった。ゼロは余程ナナが怖かったのか「キューー」という聞いたこともないような声を出して僕にしがみついていた。

「イチ様の弟、六貴のロク様に会いに行きます。今まで何度か体調を崩されたこともあったのですが、今回はナナ様がわざわざ報告してくるくらいです。ロク様は危険な状態かもしれません」

センリの表情が曇り、言葉が続かない。ロクというイチ様の兄弟のことが心配なのだろう。

「というかカナタさん、本当にナナ様に何もされてませんか? 変なところ触られたりとか……」

「されてないです!」

「ナナ様は人間の男を何人も囲っているんです。本気で気をつけて下さい」

ここに来てから自分が女の子にでもなったような気がする。センリなど完全に僕をかよわい女子扱いだ。

「カナタさんを同席させるように言ってきたのはナナ様なんです。それなのにあの方と二人きりになんかしてしまって、すみませんでした」

「いえ、僕は大丈夫ですから」

男なのだから、普通は男と二人きりにされたからといって問題はないはずだ。それにあの時はゼロもいた。ナナに怯えてずっと僕の服の中にいたが。

「ナナ様、前からカナタさんを知ってるような口ぶりでしたが知り合いなんですか」

「えっと、前に町で偶然声をかけてもらっただけで、知り合いではないです。でも名前も名乗ってなかったはずなのに、どうして僕がここにいるってわかったんでしょう」

「ナナ様は七貴ですが、仕事は副官に任せてずっとあちこち飛び回ってる方なので、色んな情報を持ってるんですよ。あの方が知らない事はあんまりないんじゃないでしょうか。情報収集が得意らしいので」

「得意……」

ナナの得意技は予知じゃなかったのだろうか。やはり先程の未来が見える云々のことを詳しく聞いておけば良かった。気になって仕方ない。

「ナナ様がさっき、自分は未来が見えるって言ってたんですけど、本当なんですか」

僕がそう言った瞬間センリが立ち止まりこちらを見る。何か余計なことでも言ってしまっただろうか。

「あの方が自分でそう言ったんですか?」

「はい」

「……へぇえ、カナタさん随分気に入られたんですね」

意味深なことを言って再び歩き出すセンリの後をひたすら追う。この反応を見るにナナの未来予知の話は嘘ではないということか。

「予知なんて言っても、そんな万能なものではないらしいですよ。あやふやなことも多いですし、近い未来の事しか見えないそうですから」

「じゃあ、やっぱり本当なんですね……」

「ええ、まあ。的中率はほぼ100です。カナタさん何か予知してもらったんですか?」

「………」

彼に言われたのはロウの姿が見えるということだけだ。しかしい一体それはどういう事なのだろうか。

「いやいや、いいんですよ、個人的な事なので言わなくても。あなたの未来ですから」

「あの、特定の誰かの姿が見えるっていうのは、どういう意味があるんでしょう」

「誰かの姿……? うーん、良い方に考えるならカナタさんの運命の相手じゃないですか。結婚相手が見えるとかロマンチックですよね〜」

「えっっ」

それだけは絶対にあり得ない。相手が誰か知ればセンリもそう思うだろう。

「いや、それはないです」

「そうなんですか? 最悪のパターンなら、あなたを殺す殺人犯かもしれませんよ」

「ええっっ」 

「あくまで最悪のパターンですって。良くも悪くも、人生が劇的に変わる相手には違いありませんけど」

「……」

ロウに殺される、それは結婚なんかより何倍も可能性がある話だ。人間嫌いで有名な彼にとって、イチ様に雇われた僕の事はすでに目障りで仕方ないはずだ。

「も、もしそうならどうしたら……どうしたらいいんでしょう」

「落ち着いて。殺されるって決まった訳じゃないですから。それにあの方の見る未来は変えることができます」

「そうなんですか?!」

「はい。有名なのが、ある人狼が恨みを買った相手に殺されるという予言をナナ様にされ、遠く離れた山奥に逃亡して助かった例があります。今も彼は生きているそうですが、故郷に戻ることはできないままです」

そこまでしないと未来は変えられないのか。だとすれば僕にはどうしようもない気がする。僕の青い顔に気がついたのかセンリが気遣うように話しかけてくれた。

「もし誰かはっきりしてるなら、その人物を出禁にすることもできます。それであなたがこの城から出なければまず安心でしょう」

「……いえ、あの、ありがとうございます。でもそれは必要ないです。殺されるって決まったわけでもないですし」

ロウを出禁にするなんていくらセンリでも不可能だ。この事は誰にも口外せず、胸の内に秘めておこう。


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