神様とその子供たち
002
ずいと距離を詰めてきたかと思うと、なぜか僕の隣に腰を下ろすナナ。ゼロが僕の服の中に隠れようとするのでそれを上からそっと抱えながらなるべく彼から離れようとした。
「お話って、何でしょうか」
「そんな警戒しなくても、いきなりここでとって食ったりしねぇから」
「……」
「冗談冗談! お前、アトウカナタっていうんだろ。まさかあの時のかわい子ちゃんを兄貴にとられるとはなぁ〜。最初に声かけたのは俺なのにさぁ」
気がつくと肩に手を回されてすでに逃げられなくなっていた。もう片方の手はなぜか僕の手の上に乗せられていて、過度すぎるスキンシップに驚く間もなくすでに身動きがとれない。
「あ、あのゼロがいるんです。ゼロは人狼が苦手で……」
「ああ、チビ? 大丈夫、チビには俺たちがイチャついてても理解できねぇから」
そういう問題ではないのだが、イチャつくという恐ろしい言葉に頭の中が真っ白になって何も言い返せない。これも彼のブラックジョークなのだろうか。
「でも俺は、もう一度カナタに会えるんじゃないかと思ってたけどな〜」
「そ、そうなんですか」
「そっけねぇなあ。カナタは俺に会いたくなかった?」
「いえ、会いたくなかったとかそういう事はなく……」
目をあわせると取り込まれそうな気がして、なるべく体をそらしてあさっての方向を向いていた。ナナの隣にいると自分がどれだけ小さい存在か嫌というほどわかる。それほど彼は圧倒的なオーラを持っていた。
「カナタ、俺の質問には正直に答えろ。もし嘘ついたら今ここで身ぐるみ剥いじゃうから」
「はい、何でも。何でも答えます」
「お前うちの親父とどういう関係だ」
「は?」
突飛な事を真剣な表情で訊ねられ、思わず彼の顔を見た。ナナの顔はいたって真剣で、とてもふざけているとは思えない。僕の肩を掴む手に力がかかる。
「君主様ですか? お会いしたこともありませんが……」
「ほんとに?」
「ほんとです」
「ん〜〜。俺にはほんとか嘘かわかんねぇなぁ……」
ナナは頭を抱えるとようやく手を離してくれた。僕の手は冷や汗でぐっしょりだ。
「や、ビビらせて悪い。センリがお前を側においてるんだから、お前が悪人だとは思ってねぇから」
「あの、いったいどういう事なんでしょう……」
困惑する僕の手を再び触る。今度は優しくいたわるように触れてくる。
「実は俺、こうやって直に触るとそいつの未来がちょっとだけ見えるんだけど」
「え?」
「カナタと初めて会った時、うちの親父の顔が見えたんだよ」
「ええ!?」
「いや一瞬、俺かな? って思ったんだけど何度見ても間違いなく親父だったわ。俺だったら迷わずうち来て働いてもらってたんだけど」
未来がわかるとかおかしなことを言い出したナナを疑り深い目で見てしまう。しかしセンリも人の心が読める特技があるし、それと似たようなものなのだろうか。
「あの、今も見えたんですか」
「ああ、見えた。俺の勘違いじゃなかったらしい」
「それはつまり、どういう事なんでしょう」
「わかんねぇ」
「えっ」
「だって顔しか見えねぇし。不確定要素がまだ多すぎなんだよ」
どういう意味なのかさらに訊ねようとした時、扉が勢いよく開き焦った様子のセンリが飛び込んできた。
「すみませんカナタさんはまだここに……って何やってるんですか!?」
僕の手を握るナナを見てセンリが悲鳴に近い声をあげる。ナナはぶりっこのようにきょとんとして首をかしげていた。
「んー? どうしたセンリちゃん」
「ナナ様!! カナタさんはまだ15歳です!!」
「だから?」
「未成年です!! 手を出したら犯罪ですよ!」
本当は18だが諸事情で15ということになっている。ナナがまじまじと僕を見るので実年齢がバレたのかと焦っていると、ナナがにっこり笑って僕にキスしてきた。
「ぎゃーー!!」
「センリうるさいぞ。キスだけならセーフセーフ」
「ナナ様はキスだけじゃ終わらないでしょう!?」
「それって褒め言葉?」
「馬鹿なこと言ってないで、カナタさん返してください!」
突然キスされてフリーズしていた僕をセンリが引き剥がしてくれる。ナナが怖いせいなのかゼロば僕の上着のなかに潜り込んだままだ。
「大袈裟だな、ちょっとツバつけたくらいで」
「カナタさんは未成年の上級市民で、イチ様が特別目をかけているここの従業員です。いくらナナ様でも。簡単に扱える人間じゃないんですよ!」
「わかったわかった、もう何もしねぇよ。それよりセンリ、お前俺とのんきに話してる時間なんかないんじゃねぇの」
「はっ、そうでした」
センリが僕の無事を確認すると、神妙な顔つきで僕に言った。
「カナタさん、あなたとゼロも我々と今から六群に向かいます。すぐに準備して下さい」
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