ストレンジ・デイズ □ 出てきた奴はみんな黒板に名前を書き、かなりご丁寧に自己紹介していった。けれどやはり中等部からの生徒は今さらといった感じで、ずいぶんリラックスした様子だった。 「中等部、元3年A組の八十島っていいます。進級ヤバかったけど、なんとか高等部に入学することが出来ました。みんな1年間よろしく!」 教壇に立つ、いかにもモテそうな爽やか系男子。彼の自己紹介はクラスのポルテージを一気にあげた。けれどその騒ぎは先ほどの藤堂の時のようなミーハー的なものとは違い、仲のいい友人の登場をはやし立てているように見えた。 「…アイツずいぶん人気あるんだな、唄子」 「生八十島善! まさかこんな近くで見れるなんて…!」 「もしもーし。唄子さん?」 唄子は俺の話なんて聞いちゃいなかった。まるで憧れの芸能人を見るかのように、うっとりした視線を送っている。どうやら人気者らしいソイツは自らが黒板に書いた『八十島 善』という名前を消し、大きな拍手と共に席に戻った。なんとか進級出来たって言ってたけど、A組にいる時点でアホではないだろう。 「次の奴、早く前に出てこい! 時間を無駄にするな!」 藤堂がイライラした様子でうなるように叫んだ。このホスト教師くんは授業がしたくてしたくて仕方ないらしい。 その声にビビった俺の前の席の男は、のろのろと立ち上がり教壇に向かう。例のいじめられっ子だ。周りの視線が冷たい。途端に静かになった教室にチョークの音だけが響いている。メガネで半分顔が隠れた根暗くんは、黒板に綺麗な字で『小山内 希望』と書いた。 「コヤマウチ、キボウ…? ずいぶんと名前負けしてる奴だな」 「オサナイ キミ、ね。キョウちゃんって漢字弱いよね」 うっせえんだよとくってかかりたいのは山々だが、あながち間違いとは言えない。でも読める唄子もすごいと思う。普通、希望でキミなんてすぐには出てこないだろ。 のほほんと読み方について語っていた俺達をよそに、クラスの雰囲気はかなり悪いものになっていた。 「キミ、夏川様に話しかけたんだって? 身の程知らずも良いとこだよね」 前の席にいた比較的に可愛い系の男子が、皆にも聞こえるような声でそう言った。その声ときたら、いきなり名前呼びなんて仲良しね、などとは間違っても思えないほどの冷たさだった。しかもそれを筆頭にどんどんと周りの不満の声がエスカレートしていく。 「キモオタのくせに夏川様に媚びるなんて…マジウザい」 「同じ空気吸いたくないんだけど、何でここにいるの? 帰れば」 「いい迷惑なのにさっさと気づいてよ。夏川様の邪魔になるだけだし」 思わず耳をふさぎたくなる罵倒に俺はびっくりして固まってしまった。全員が全員言ってるわけじゃないが、キモいとかそういう悪口を平気で連呼してるのことが驚きだ。 けれど俺が一番気になったのは、言われている本人だった。ほとんどのいじめられっ子がそうであるように、反論しないのだ。だから余計に周りはつけあがる。 「おいお前ら、ちょっと静かにしろ」 一向に進まない自己紹介に業を煮やしてか、藤堂がそんなことを言った。しかしそれでも理不尽な罵りはやまなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |