ストレンジ・デイズ
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そんなこんなしてるうちに、俺はだんだんと腹がたってきた。いじめられっ子なんて普段の俺なら気にもとめないが、今回はいじめられる理由が道理にあわない。
藤堂は頼りにならないし香月なんてもってのほかだ。いまだに事態が飲み込めず目をぱちぱちさせている。どうやらコイツには唄子のわかりやすい学校解説がなかったようだ。
「ちょ、キョウちゃん…何してるの」
無言で立ち上がる俺を見て、唄子が心配そうに尋ねてきた。
「悪い唄子、俺もう我慢できねぇ」
「へ? ちょっと、ねぇ! どこ行くの!?」
根暗くんの自己紹介はもちろん終わっていなかったが、さっさとこの茶番を終わらせるため俺は教卓に向かって歩いた。当然その行為は目立ったがウザい罵倒が消えて俺は満足だった。
「お前、もう席戻れ」
「え…あ、あの…」
「戻れっつってんの。次、俺の番だから」
根暗くんはいきなりの俺の登場と発言にたじろぐばかりだったが、黙っていなかったのは外野だ。
「ちょっと何アンタいきなり。まだ話はついてないんだけど」
「女のくせに口はさまないでよね」
小山内に悪態をついていた集団が一気に騒ぎ立ててくる。ウザい。こよなくウザい。どっちが女かわからねぇキモいしゃべり方しやがって。
「…お前ら、さっきから聞いてりゃウゼェことばっか言って、腹立つんだよ。何が夏川様だ。馬鹿じゃねえの」
「なっ…!」
ウザキモ集団の顔が一気に真っ赤に染まっていく。俺の正直な気持ちは正しく相手に伝わったようだ。
「何コイツ! 何様のつもり!?」
「誰だか知らないけど、夏川様を汚した罪は重いよ!」
立ち上がってギャーギャーと馬鹿みたいに抗議してくる奴らを睨みつけ、俺は教卓をバンッと叩いた。
「どいつもこいつも夏川様夏川様って…ソイツこそ何様だよ! 夏川がそんなに偉いか? え? 何でソイツに話しかけたぐらいでこんなイジメに発展すんだよ! 全っ然意味わかんねぇ!」
もしこれが常識というなら、この学校は異常だ。俺には絶対わからないし、わかりたくもない。
「でもな、一番いらつくのはテメェだそこのメガネ!」
俺はおろおろする小山内を指差し、思いっきり睨んでやった。まさかこっちに来るとは思っていなかったのか奴の体がビクッと大きくはねた。
「テメェも何で言い返さねぇんだ。せっかくあからさまにイジメてきてんのに、何も言わなきゃエスカレートするだけだ。あんな理不尽なこと言われて、腹たたねえのかよ!」
「…………」
何も言い返してこない。小山内は俺の威圧感にすっかりびびってしまったようで、視線を泳がせるだけだ。
実のところ俺は心のすみっこのほうで、こんなすっきりしたイジメはなかなかないな、と思っていた。今までの経験上、イジメというのは陰湿なものが多くて、話し合いも理由も言わず一方的にこっそりと行われるものだった。でもこれは違う。はっきりどうしていじめるのか理由を言ってくれて、なおかつ先生の目の前でやってくれるなんてイジメとしてはかなり潔いものだった。
でもその理由が、どうしても気に入らない。理不尽にもほどがある。
話は違うが、中学時代にも似たようなことがあった。元来、言いたいことはハッキリ言う、やりたいことは何でもやる性格の俺は、自分を偽り我慢して溜め込む奴が大嫌いだった。
世の中、自分の気持ちをはっきり言える奴ばかりじゃないんだ、と言われたこともあるが、正直そんなの知るかって思った。今も思ってる。だってそんなのは結局、自分自身の問題だからだ。言えない奴が悪い。
そして目の前にいるコイツは、どうやらその部類らしい。まさに、俺の一番苦手なタイプ。
「…藤堂先生」
俺はギロリと担任に視線を送った。俺に睨まれた藤堂の肩が一瞬震える。
「な、なにかな…?」
「朝から気分悪いものを見せられて非常に気分が悪いので、今日は早退します。すみません先生」
「あ、…うん分かった、お大事に…」
担任の了解をなんなく得て、俺は廊下に通じるドアへ向かった。香月は完全にアイターって顔をしていたが、無視した。
「ちょっと、逃げるの!?」
後ろから俺に向けられているであろう声がしたが、これもまた無視。
中学の時より派手にぶちかましてしまい、明日からまた変な目で見られるんだろうなあと思いつつ、俺は教室を出た。
もちろん後悔はしてない。
クラスで浮くのは確実だったが、入学早々うまいこと言って授業をサボれたのだ。勉強なんてクソくらえな俺としては、大満足な登校初日だった。
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