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ストレンジ・デイズ



「…あ」

そのホスト教師の視線から逃れようと、一緒に入ってきたもう1人の男に目を向けたとき、俺はやっと気づいた。

「…香月じゃん」

ヤツの存在に今までまったく気づかなかった。自分でも薄情だと思うが、香月はボサボサの髪に瓶底メガネ、まるでボク目立ちたくないです、と言ってるかのような格好だ。隣のイケメン教師に比べてあまりにインパクトがなさすぎる。見逃すのも無理はない。

「やだアレ香月さん!? ナイスオタクっぷりじゃない!」

なぜか唄子は親指をぐっと立てて喜んでいた。香月は素の方が絶対いいのに。
見た目はともあれ、どうやら唄子は香月のことが気に入っているようだ。きっとこのクラスの担当になるよう仕組んだに違いない。

「えー、俺が今日からお前らの担任になった、藤堂だ。漢字はこう書く」

一応担任らしくしゃべりだしたホスト教師は、黒板に雑な字で『藤堂 雅』と書いた。先ほどからギャーギャーうるさい集団が、さらに沸き立つ。

「一年間よろしく。…で、こっちが副担任の山田先生だ」

簡素な自己紹介をかったるそうにした藤堂とやらは、斜め後ろに控えめに立っていた香月に、前に出て来るよう指示した。

「初めまして、山田和希、といいます」

軽くお辞儀をした後、黒板に綺麗な字で『山田 和希』と書く香月。藤堂の文字が並んで余計に不恰好に見えた。

「俺もみんなと同じ今年からの教職となりますが、精一杯頑張りたいと思っています。不慣れな部分もあると思いますが、副担として、これから一年間よろしくお願いします」

教師とは思えないほど腰が低い香月は、もう一度丁寧に頭を下げる。だがパラパラと小さな拍手がおこっただけで、藤堂のときと比べるとあまり歓迎されていないようだった。そればかりか、ボソボソと中傷的な言葉まで聞こえてくる。

けれど香月の方はまったく気にしていないようで、顔色一つ変えないまま再び一歩下がった。一瞬、俺に向かって微笑んだような気がしたが、長すぎる前髪のせいでよくわからなかった。

「俺は現代文、山田先生は生物の授業を担当する。お前らは当然俺達の授業を受けることになるだろうが、A組という自覚を持ち、どのクラスよりも学習に励んで欲しい」

この色黒男、見た目はチャラいくせに勉強勉強言うのか。どうやら中身は他の教師と変わらないようだ。

「普通なら今日はホームルームだけで終わる予定だが、俺達のクラスは特別に授業をする。喜べ」

あまりのことに俺はよほど叫んでやろうかと思ったが、周りを見ても誰も不満たらたらなヤツはいない。むしろ本当に喜んでいるようだった。これが進学校の恐ろしさか。

「の、前に」

藤堂が生徒の名簿を開き俺らを見回した。

「見知った顔も多いと思うが、初対面のクラスメートもいる。一応簡単に自己紹介してもらおう。決まりなんでな」

眉間に皺を寄せ仕方なく、といった感じで藤堂は言った。どうやら本心ではさっさと俺達に勉強させたいようだ。

「窓側のヤツから順番に名前、外部生は出身中学も、前に出て言え」

藤堂は俺の列の一番前にいた男に、教壇に立つよう顎で指示した。つくづくえらそうな教師だ。

正直、こういう自己紹介みたいなのは苦手だ。何話したらいいかわかんないし。窓側に座るんじゃなかった。これじゃあすぐに順番がきちまう。
でも授業をするよりはよっぽどいいな、と思い俺は出来るだけ長い自己紹介文を、頭の中で必死に考えていた。


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あきゅろす。
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