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ストレンジ・デイズ
■自分勝手


「じゃあ俺達も食堂戻ろうぜ。…ってあれ、怜悧は?」

またしても姿が見えなくなった怜悧様を響介様が探し始める。キョロキョロする響介様に俺は笑顔で答えた。

「怜悧様なら、先に食堂に戻られると言っていましたよ」

「はあ? またアイツ一人でフラフラして…! 怜悧ー! ちょっと待てー!」

慌てた響介様はすぐに食堂へと廊下を走っていってしまう。あっという間に姿が見えなくなった響介様を追いかけるのを諦め、俺は心配しているであろう唄子さんにメールを送信した。

「さてと…で、貴女はどうしてそんなところに隠れているんですか」

「……うるさい」

響介様が目を離した一瞬のスキに女子トイレにこもってしまった怜悧様。彼女の顔を見て一人にさせた方がいいと思い嘘をついたが、こんなところに置き去りにするわけにもいかない。

「どうして泣いているんです? 何かあったんですか」

「うるさいって言ってるじゃない。私がいない事に響介が気づいたらまた探しに来るんだから、私なんか放って見張ってた方がいいんじゃないの」

「唄子さんに私と一緒にいるとメールで伝えたので大丈夫ですよ。そんな顔の怜悧様を戻すわけにはいきませんし」

「…香月」

その後しばらくすすり泣く怜悧様の声が聞こえたが、何も言ってこないので女子トイレの前で待つことしかできなかった。しびれを切らした俺は遠慮がちに怜悧様に声をかけた。

「いったい何があったんですか。話してくれないと何もできませんよ」

「……響介が、響介が悪いんだもん」

「? どういう意味ですか?」

怜悧様が響介様を悪く言うなんて珍しい。あまりなかった興味が少し湧いてきた。

「響介が、私に八十島って人と付き合ったらって言ってきたのよ! あんなこと言うなんて、今までの響介ならあり得ない」

「えっ響介様そんなこと言ってきたんですか!? 嘘でしょ??」

あの怜悧様大好きで妹に男を寄せ付けない事しか考えていないような人にいったい何があったのか。怜悧様が男をもてあそんでポイ捨てしているという事実を響介様は知らないはずなのに。

「いやでも、八十島君ならまだ…」

響介様は八十島くんをとても気に入っている。俺が一番の強敵だと警戒するくらいに。今はあくまで友情の範疇なので見守っているが、友達としてあそこまで親しくなったのは彼だけだ。八十島君相手なら響介様がそんなことを言ってもおかしくないかもしれない。しかしこれが事実なら、怜悧様だけでなく八十島君もショックを受けたことだろう。

「ここに来る前の響介はあんなのじゃなかった! あんなこと死んでも言わなかった! ここで一体何があったの? 何で変わっちゃったの??」

「え。いや特になにも…」

何もない、と言おうと思ったが確かに響介様はこの学校で変わった。今まで自己中心的にしか行動しなかった響介様に友達ができて、ほんの少しだが思いやりも持てるようになっていた。殆どが良い方向にだが、俺の知らないうちに響介様は変わりつつある。

「まさかあの女…!? 阿佐ヶ丘唄子とかいうブスのせい?」

「ブ…怜悧様またそんなこと言って」

「あの女が響介に手ぇ出してどーにかこーにかなってんじゃないわよね?! そんなの絶対阻止でしょ! なに呑気にやってんのよ香月!」

「どーにもなってませんよ! 変な勘繰りはやめてください! というかさっさとそこから出てきてください」

どうせ怜悧様しかいないのだからと女子トイレに足を踏み入れ怜悧様を引きずり出す。いとも簡単に引っ張り出された怜悧様は、全部俺のせいだといわんばかりに涙目で睨み付けてきた。

「なによ香月、他人事みたいな顔してるけど、あんただってどうなるかわかんないんだからね」

「? それってどういう…」

「山田先生?」

怜悧様に意味深なことを言われ一瞬動揺したとき、思わぬ邪魔が入った。怜悧様を両手で持ち上げていた俺の前に現れたのは、なぜか夏休みにも関わらず校舎をうろついていた樽岸君と余目君だった。


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あきゅろす。
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