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ストレンジ・デイズ



「先生その子誰? そんな女子初めて見た!」

余目君が俺が抱えあげていた怜悧様を見て目を輝かせる。八十島くんにベタぼれの彼でも怜悧様を見て目の色を変えたので素早く自分の後ろに隠した。

「この子はなんでもありません。あなた方はなぜここに」

「ここの生徒なんだからどこ歩いてたっていーじゃん。なあ誰? 誰その可愛い子」

二人とも怜悧様に興味津々なので誤魔化すのが難しくなってくる。どうやって切り抜けようかと迷っていると、怜悧様が二人に頭を下げた。

「初めまして、私は小宮怜悧といいます。ここの学校に通う姉に会いに来ました」

「へー、ってことは中学生? 大人っぽいなぁ」

「…小宮? 小宮ってまさか小宮今日子の…」

樽岸君はすぐに気づいたようで怜悧様の顔をまじまじと見つめた。怜悧様の方もスキンヘッドで強面の樽岸君をじっと見返していた。

「小宮今日子の妹ってこと? マジで? すげー」

「竜二、もう行くぞ」

「え? なんで」

「いいから。じゃあ先生、また」

樽岸君は怜悧様から目をそらすと余目君の腕を引っ張って歩いていってしまう。俺にとっては好都合だったが、樽岸君の様子がいつもと少し違う事が気になった。

「怜悧様、彼らはあんな見た目ですが意外といい子達なので安心して下さいね。でもまた話しかけられたらすぐ逃げてください」

「…今の人、何か見たことある」

「え? 誰です?」

「スキンヘッドの方、どこかで見たことある気がする」

「樽岸くんですか? いったいどこで?」

「それがわかんないんだってばー」

怜悧様の言葉に一瞬慌てたが、例え彼らが怜悧様と面識があったとしてもそこまで問題ではない。そもそも響介様が男だという一番の秘密が彼らには知られているのだ。

「樽岸って名前は知らないし、やっぱ勘違いかな…」

「勘違いであろうとなかろうとあの二人には近づいちゃダメですよ。さ、行きましょう怜悧様。キョウ様が待ってます」

「えー! まだ目真っ赤なのに…やだやだ行きたくない」

「そんな我が儘言わないでください。困ります」

「だってまた響介があのイケメンと付き合えとか、そういう話してきたら立ち直れないもん」

「怜悧様イケメン好きじゃないですか。それにそんな心配しなくても八十島くんは怜悧様なんて眼中にないですよ」

「あんたもちょっと会わないうちにイイ性格になったもんね!」

「いたっ」

怜悧様から強烈な回し蹴りをくらってお尻をさする俺。彼女に逆らうとろくなことがないのはよくわかっていたのでそれ以上はなにも言わず黙っていると、怜悧様が俺の腕をきゅっと掴んできた。

「…響介は私のなのに、響介だって私が一番だったはずなのに…なんで…なんでなのよぅ」

「怜悧様」

怜悧様は響介様以上に傍若無人、自分勝手な我が儘美少女である。その上男を使用人か何かかと勘違いしている節があり、便利な道具としか思っていない。
それ故彼氏ができても長続きすることはないが、響介様だけは別だった。怜悧様は兄である響介様の事も他の男同様都合良く扱っているが、響介様はその事で怜悧様に怒ったりしないし、むしろ喜んでいるふしがある。
いくら怜悧様が美少女とはいえ、その我が儘ぶりに何人もの男達が逃げてきた。何をしてもひたすら自分を可愛がってくれる兄の存在は怜悧様の悪い性格を助長させたが、彼女の兄への愛は深まるばかりだった。

血の繋がった兄妹である以上、怜悧様の思いが通じることはない。けれど響介様に一番愛されているのは自分だという事実があればそれだけで良かったのだろう。だからこそ響介様の言葉に怜悧様は深く傷ついていた。

「響介様は怜悧様の事を今でも一番大事にされていますよ。ただ貴女の幸せを考えているだけです」

「幸せ? そんなもの私には…」

「怜悧様と響介様は切っても切れない関係ですから、大丈夫。響介様は確実に成長しています。それを喜ぶべきですよ、俺たちは」

俺も怜悧様も響介様を裏切っていっていい。この不純な気持ちは隠すべきなのだ。それが響介様に幸せになってもらうために必要なことなのだから。

「香月にはわからないわよ、私の気持ちは」

勝手に同志だと思っていた怜悧様からの言葉に何も言えなくなる。彼女が何一つ納得していないことをわかっていたが、ゆっくりでも歩き続ける怜悧様には何も言えなかった。


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あきゅろす。
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