ストレンジ・デイズ
□目立つなと言われても
てっきり遅刻すると思い、数十メートルは離れている昇降口まで走った俺達だったが、よくよく見ればまだ周りに人がわらわらいる。どうやら遅刻の心配はないようだ。
「なんだよ、まだ全然余裕じゃん! …ってあれ…?」
俺は唄子に文句を言おうと振り向いたが、そこに彼女はいなかった。なぜだ。どこに行った。
1人になっては教室の場所がわからない。とりあえず近くの奴に訊こうとしたが、まわりはやはり男。そして今までにない激しい視線を感じる。話しかけてはいけない、と俺の本能が叫んでいた。
「キ、キョウちゃん…!」
考えこんでいた俺の後ろから、やっと息も絶え絶えな唄子がよたよたと歩いてくる。
「おせーぞ唄子。何やってたんだ」
「お、おせぇって…キョウちゃん、足速すぎ……」
「お前が遅刻するっつうから走ったんだろ」
呼吸をととのえる唄子を横目に、俺は目の前にそびえ立つ学舎を見上げた。見れば見るほど西洋風の豪邸だ。まさか床が赤いカーペットに敷き詰められてる、なんてことないだろうな。
「いつまでゼェゼェ言ってんだよ、行くぞ唄子」
俺はそう言って靴箱へ向かおうとしたが、校舎に入った瞬間、目の前にはごく普通の廊下が広がっていた。
「靴箱は…?」
「ないわよ。下靴のまま、授業を受けるの」
「嘘!?」
やっと復活したらしい唄子が俺の後からついてくる。衝撃的なことを言いながら。
「そ、そういうとこも西洋風かよ。雨の日とか床びしょびしょじゃん」
「濡れた靴履くわけないでしょ。あ…ちょ、そっちじゃなくてこっち! 1年の教室は2階!」
ぐるりと体の向きを変えられ階段の方へ押される。意外と校舎内は普通だ。中学の時と似たような感じ。
「それにしても、本当に男ばっかだな…。しかもこのギャラリーの多さ。俺らは中国から来たパンダかよ」
「…女が珍しいんでしょ。しかもキョウちゃん超美人だし。これぐらい慣れなきゃ」
階段を上りきると唄子にスカートの裾を引っ張られ、こっちだとせかされた。動くたび揺れる長いカツラがどうにも鬱陶しい。
すれ違う生徒達にじろじろ見られながらも、1年A組というプレートがさげられた教室を見つけ、俺達は恐る恐る足を踏み出した。
「きゃあ男ばっかり!」
「うわぁ男ばっかり…」
教室にいたのはむさ苦しいほどに男の集団。もちろん俺のテンションがた落ち。反対に唄子はワクワクしているように見えた。
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