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ストレンジ・デイズ



俺達が教室に入った途端、騒がしかった教室が一気に水を打ったように静まり返った。気持ちはわからなくもないが、どうにも居心地が悪い。

「唄子、後ろのはじっこ座ろうぜ」

「賛成!」

もちろんまだ席は決まっていないようで、俺達は窓際の一番後ろという絶好のポイントをゲットした。唄子が後ろで俺が前だ。周りからはひそひそと、俺たちを見ながら何か言う声が聞こえる。

「クソ…やっぱ女がいねえ。まるっきり男子校じゃねえか」

「…さすがA組! いい攻メンズがわらわらと!」

「セメンズ…?」

後ろの席であることをいいことに、俺達はクラス内をよく観察していた。比較的顔のいい奴が多い気がする。

「確かに男にしては可愛いと言えるかもしれない奴らがいる気もするが、どうにかしようとか思えねえよ。…ホントに強姦とかあんのか?」

俺は一通りクラスの奴らの顔を確認した後、唄子に小声で尋ねた。

「あるわよ! そんな嘘つくわけないでしょ」

はっきりと断言されてしまい、俺はまたしても落ち込んだ。もし俺が男だとバレたらどうすればいいんだ。

「なんだキョウちゃん。襲われる心配してたのね。大丈夫、安心して。誰かにヤられそうになっても絶対助けてくれるから」

「…誰が?」

「キョウちゃんの運命の人よ! 例えば夏川先輩とか、夏川先輩とか」

夏川だけかよ。

「言っとくけど、ヤられそうになった受けがギリギリで助けられるのは王道よ? まあ大抵そのヒーローは生徒会長なんだけど」

「俺も言っとくけど、俺はそんなんで恋心芽生えねえからな。ってか俺が自分でかたつけるっての」

俺に何かしようとする奴がいたら、俺自身がギタギタにしてやるまでだ。あまりケンカはしたことないが、負ける気はまったくしない。だいたい体育会系の勝負事で俺が負けたことはないのだから。

「ええ〜、おぼっちゃんのキョウちゃんにデフの連中を倒せるとは思えないけど」

「…お前、俺の運動神経なめんなよ」

中学のとき、体力測定校内ランキング堂々の3年連続1位だったんだ。体力も反射神経にも人一倍自信がある。いざとなったら自慢の足で逃げてやるまで。

「キョウちゃん、ここがただの進学校だと思ったらダメよ。スポーツ推薦入学者の特別クラスがあるぐらい、最神学園は部活動も盛んなんだから」

「…マジで? すげぇな」

あ、ちょっと興味わいてきたかも。そんな運動神経いい奴らがいるなら、ぜひ勝負してみたいものだ。

「そのスポーツ推薦ってさ、サッカーもあんの?」

「もちろん。キョウちゃんサッカー部だったの?」

「まあな」

あの頃、サッカーはめちゃくちゃ楽しかった。部活のために学校に行っていたと言っても過言ではない。人付き合いが苦手な俺でも部活では友達が出来た。まあその数少ない友達とは、この女装入学が終わるまで音信不通にすることを約束させられてしまった訳だが。

「はぁ〜、やっぱり入学するんじゃなかったなあ…」

女の姿じゃサッカー部にも入れない。もはや精神の四面楚歌だ。

「確かにキョウちゃん、よく了解したよね。女装なんて。確か妹さんに頼まれたんだっけ?」

「…そう」

妹が俺の最大の弱点とも言える。怜悧には逆らえない。

「キョウちゃん、妹さん大好きなんだ」

「もちろん! 俺は怜悧のためなら死ねる! アイツめちゃめちゃ可愛いんだぜ!? 写真見る? 見る?」

唄子の返事は聞かず、そのまま首にかけていたロケットを取り出し、中にある小さな写真を見せた。

「ほーら可愛いだろー?これは1年前の写真なんだけどさ」

「た、確かに可愛いけど、ロケットって……死んだ人じゃないんだから」

「ゴルァ唄子! 死んだとか二度と言うんじゃねえ!」

これは俺が1年ほど前に作らせ、ここに来てからは毎日首にかけている大切な物だ。これでいつも怜悧と一緒にいることが出来る。

若干引き気味の唄子を無視して、俺は何気なく前方に目をやった。すると俺のまさに目の前に、どこか見覚えのある奴が。


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