ストレンジ・デイズ
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「これはもう、すべてをわかってもらうしかないわね」
そう言った唄子は部屋に積まれたダンボールの1つを担ぎ、バンッと激しい音をたてて俺の目の前に置いた。
「……なにこれ」
「あたしの趣味の集大成」
「し、集大成?」
「の一部」
「一部かよ!」
とてつもなく嫌な予感。唄子の趣味は俺には理解出来ない代物だ。
「これ読んでちょっとは勉強して! BL学園物ばっかいれてきたから! 強制よ!」
この女のいいなりになるつもりはさらさらなかったが、迫力ある唄子の声色におされて恐る恐るダンボールの中を開く。
「あ!」
唄子がいきなり叫んだので、俺はビクッと彼女の様子をうかがった。
「やっば、もうこんな時間! ペラペラ話しすぎちゃった。キョウちゃん早く用意して! 学校始まっちゃう!」
机の上に置かれた目覚まし時計を見て俺をせかす唄子。なるほど、朝のホームルームまで時間の余裕があまりないのに、八割型どうでもいい話で終わってしまったわけだ。
「後でちゃんと学校の説明しろよ! 俺入学説明会出てないんだからな!」
「わかってるわよ! いいから早く鞄に筆記具だけいれて! 今日は授業ないから!」
言われた通り、送ったはずの指定鞄を探していたら、いきなり唄子に肩をつかまれた。
「な、なんだよ」
「大事なこと言うの忘れてた…!」
唄子はうっかりしてた自分にびっくりしていたみたいだが、俺にしてみりゃ当然だった。コイツの自分勝手ぶりには目を見張る。中学のとき、同じクラスの女子に『真宮君ってワガママだよね』とまで言われたこの俺を振り回すなんて、阿佐ヶ丘唄子、あなどれない女だ。
「まず1つ、あたしが理事長の孫だってのは誰にも内緒」
「なんで?」
「そういう目で見られたくないの! あたしもキョウちゃんの性別黙っててあげるんだからいいでしょ! それからあと1つ!」
そう言われてしまえば何も言えない俺は、黙って唄子の話を聞いた。
「学校では、必要以上に目立たないこと!」
「……はあ?」
何でコイツが香月と同じこと言うんだろう。香月が言うのはわかる。でも唄子は俺の女装がバレても困らないし、むしろバレた方が喜びそうなのに。
「そりゃこの学校で女である以上、目立たない訳にはいかないでしょうけど、限度を超えた注目を浴びちゃダメ。ただでさえ今のキョウちゃん迫力美人なんだから、せめて中身だけは大人しくしといて」
「大人しくって…何かお前、今まで言ってきたことと矛盾してねぇ?」
先ほどまでの唄子の会話からして、てっきり俺に目立って欲しいんだと思ってた。
「そりゃ矛盾してるに決まってるわよ。今までのはあたしの願望。これは忠告と建て前」
「………?」
唄子の言うことはまるで意味がわからない。だいぶ前からだけど。そして彼女もわかってもらうつもりがないのか、深く説明しようとしなかった。
「よし、じゃあキョウちゃん。遅刻する前に教室に行くわよ!」
勝手にまとめて勝手に終わる女、阿佐ヶ丘。コイツと同室になったのが、俺の波乱の学校生活の始まりだったのかもしれない。
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