ストレンジ・デイズ
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「しょうがないからキョウちゃんのために、富里先輩のデータをおしえてあげる」
またしてもあの例の手帳を開く唄子。末恐ろしい手帳だが、これから役に立つかもしれないと俺は耳を傾けた。
「えー…2年A組、富里ハルキ。成績はいつも学年トップをキープ。その柔らかな物腰とすべての者の心を溶かす笑顔で、生徒会副会長に選ばれる…」
「はあ!? アイツが副会長ぉ!?」
俺の叫び声で紹介を遮られた唄子は、不機嫌そうな顔で俺を睨んだ。
「そうよ。それがそんなに驚くこと?」
「驚くに決まってんだろ!」
だって副会長って、普通の学校でなら頭のいい富里が生徒会にいるのは何ら不思議ではないが、ここの生徒会役員は人気投票で決まる。まさかトミーにそんな人気があっただなんて。
「何言ってんのキョウちゃん。そういうことは富里先輩の顔をちゃんと見てから言いなさい!」
確かここに…と唄子はパンフレットをめくり始める。まさかそこにトミーものっているのだろうか。
「あったあった、ほらここ! やっぱり素敵!」
唄子が指差す先にはにっくき富里の姿が。正直よく覚えていなかったが、予想通りのすかした面だ。張り付けたような笑顔に肩まで伸びるうざったい髪。見てるだけでも腹が立つ。
「ふっ…俺の妹を振った罪は重いぜトミー、必ずお前に一泡吹かせてやる…!」
シワができるほど強くパンフレットを掴む。唄子は俺がつけたトミーというあだ名に不満らしく、途端に嫌な顔になった。
「変な名前つけないでキョウちゃん。富里先輩はいつも笑顔の純粋美少年よ! もう誰にでもお優しくて、そんな富里先輩がみんな大好き! 属性は言うまでもなく『腹黒副会長』!」
「腹黒ぉ? …やっぱりそうか、どこか胡散臭さい奴だと思ってたんだ」
怜悧を振った時点で男としては終わってる。見た目は善人面してるが、どうせ裏表ありまくりの偽善者なんだ。
「でも、副会長とくっつくのは、あんまり王道じゃないよキョウちゃん」
「るせーな唄子、そんなくだらないこと言ってねえで、トミーを落とす方法でも考えろっつの」
中身がどうあれ富里ハルキを惚れさせることは、決して簡単じゃないはずだ。なんたってあの世界一可愛い俺の妹、怜悧の愛の告白を片手で握り潰した男。一筋縄でいくはずがない。
「大丈夫よキョウちゃん。あの手のタイプには面と向かって『その笑顔胡散臭いですね』って言っとけばいいのよ」
「胡散臭いですね!? なんか俺さっきから嫌われることしかしてなくね? んな奴ぜってぇ好かれねえだろ」
はぁぁ、とまたしてもバカにしたようにため息をつく唄子。何かいちいち腹立つんだよなコイツ。
「あのねぇ、腹黒副会長ってのは笑顔の裏に暗い影を隠してんの。仮初めの笑顔を見抜いてやれば『気づいたのは君だけだよ…』って言ってくれるから」
「で、その後口止めに殺されんの?」
「ほんっとキョウちゃんて馬鹿!」
はっきり顔見て馬鹿って言われた…。
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