ストレンジ・デイズ
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「なあ唄子、お前が夢見るのは勝手だけどな、その夏川って奴はホモなんだろ? 俺一応見てくれ女だし、ソイツが俺のこと好きになるとは思えねえんだけど」
だんだん反抗するのも疲れてきた俺は、なんとか諦めてもらおうと正論をぶつけてみる。けれど相手は何を言っても聞きゃあしない女、阿佐ヶ丘唄子。もうどうにも止まらない。
「いいのよキョウちゃんは素で。この手のタイプは冷たくするのが1番なんだから。いっそ初対面で蹴ったりしてくれたら万々歳なんだけど」
「蹴るの!? 生徒会長を!? 初対面で!?」
そんなの印象最悪だと思うけど。俺ぜったい親衛隊にギッタギタにされるだろ。
「あのねぇ、夏川先輩はこの学校で手に入らないものはないと思ってるのよ? そこにキョウちゃんみたいな自由に出来ない子が現れたら、気にならないわけないじゃない! 何が何でも懐柔させようとするに決まってる! そしてその思いはいつしか本気の恋に…」
自らの胸元で手を組み目を輝かせる唄子。妄想に花を咲かせているのか。まあだがもし唄子の言うとおりなら大変だ。俺は頭で考えるより先に手がでる方だが、夏川だけは何があっても絶っ対に蹴ったりしないでおこう。
「そりゃあキョウちゃんは“総受け”なんだから他にも魅力的な人はいると思うわ。でもやっぱり王道には勝てやしない! 2人を阻む者はこのあたしが消してやる!」
「……俺としてはお前を消してやりたいとこだがな」
コイツが女じゃなかったらとっくに殴ってた気がする。ここまで我慢したのはしばらくぶりだ。
「確かに香月さんもいいと思うわよ? 敬語攻め、主従愛、最高! でも彼ってどことなく受け臭いから…」
「いったい何の話してんだよ、お前」
どうして唄子の話には時々香月が出てくるんだろう。多分会ったことがあるんだろうけど。それにしても受け臭いって……オカマっぽいってことだろうか。
「確かにアイツは見た目ひょろっとしてて女みたいだが、脱いだら結構すごいぞ。ガリマッチョってやつだ」
「ぬ、脱いだらって……」
なぜか期待するように唄子に見つめられる。ひょっとしてマッチョ好きなのだろうか。
「あと素手でゴキブリつぶすしな! 全然カマっぽくねえよ」
「…キョウちゃん、一応言っとくけど、受け=オカマじゃないからね」
え、そうなの? じゃあ受けって一体何なんだ。気にはなったが何となく訊かない方がいい気がした。
「つーか盛り上がってるとこ悪ィけど、俺はこの学園にいる富里っつう男を誘惑しに来たんだ。お前だって知ってんだろ? 会長なんかにかまってられねえ」
そうだそうだ。唄子があまりに突飛なことばかり言うから若干頭からすっ飛んでいたが、俺の本来の目的はそこにある。復讐だ。
「あー…、そういえばそういうことになってたっけ。でも富里君は駄目」
「なんで!?」
俺の叫びとも言える質問に、唄子は胸を張って答えた。
「だって彼、超ストレートだもん。男に完璧興味なし。ノンケもいいとこよ」
「…だ、だから女装してるんですけど……」
本当にコイツは俺がここにきた意味を、ちゃんとわかってくれているのだろうか。激しく心配になった真宮響介、16の春だった。
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