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ストレンジ・デイズ



しばらくの間、不機嫌な顔をしていた唄子は、いきなり思い出したようにポンと手を叩いた。

「あ、キョウちゃんに1つ忠告。校内では襲われないよう十分気をつけてね」

「…………なんだよソレ。リンチでも流行ってんのか」

「いや、率直に言うと、強姦」

「ごう…!?」

衝撃的な発言をしながら、唄子はのんきに買ってきたジュースとパンを袋から取り出していた。

「強姦って…犯罪だろ! 逮捕しなくていーのかよ!」

だが俺の怒りの叫びに唄子はため息をつくだけだった。

「しょうがないのよ。男同士の話だから立証が難しくて。被害報告があっても誰もヤられてないの一点張り。学校側もそう言われちゃ何も出来ない。……そんな青い顔しないでキョウちゃん、さすがに女の子には何もしないと思うから」

唄子はそう言ったが俺の心配は別にあった。だってもし強姦なんかされたら俺が男だとバレてしまう。そうなったらこの世の終わりだ。

「…ん? ちょっと待てよ。男同士で強姦、ってどうやるんだ? 何もできねーじゃん」

俺のとても女にする質問とは思えない言葉を聞いた途端、唄子が何かを悟ったような目で俺を見てきた。

「な、なんだよ」

「………キョウちゃん。後でおねーさんが色々おしえてあげようね」

同情するように肩を叩かれる。ってかおねーさんって。絶対俺の方が年上なのに。

「ま、心配いらないわよ。ここの男の性対象は今んとこ男だし」

……男、ですか。

「でもさぁ、ここってお金持ち進学校だろ? 強姦とかする奴いんの?」

俺のイメージでは、この学校の生徒は全員ガリ勉。眠るぐらいなら勉強する、っていう将来エリート集団かと思っていた。

「…あんまり知られてないことだけど、実はこの学校、事実上2つのグループに別れてるのよ」

唄子は話しづらそうに説明しだした。

「ここって高校から入学するのは死ぬほど難しいんだけど、中学受験はそうでもないのよね。金さえあれば入れちゃう感じ。だからたまにいるのよ、チャラチャラした成金の息子が」

またしても衝撃的な事実に俺は必死で耳を傾ける。成金の息子? 俺もそれに近い存在だが。

「ソイツらは俗に言う不良で、この学校の風紀と偏差値を乱してるわけ。あたし達は彼らをまとめて“デフ”って呼んでる」

「デブ?」

「違うわよ! デ、フ!」

そんな不良集団がいながらも進学校として名を馳せているのは、相当他の生徒が頭いい証拠だ。確か俺の復讐相手であるトミーは、学年トップだとか言ってたっけ。クソ、つくづく腹の立つ男。

「つーか何でデフなわけ。自分達でそう名乗ってるのか?」

「違う違う。ウチの学校は成績順にクラス分けされるんだけど、やっぱり不良は頭の悪い下のクラスになっちゃって。D組、E組、F組に多いのよ。だから、DEF(デフ)」

「はー成る程。って不良多くね!? 全体の半分じゃん!」

「全員が全員不良じゃないって。中には気弱なメガネ君もいる。その子達は奴らの恰好のカモ。顔のいい子は襲われる対象。だからみんな死に物狂いで勉強するのよ。中学持ち上がり組はそのことよーくわかってるからね」

「……知らずに入った外部生が気の毒」

「大丈夫よ。外部で入るような子がD以下になるなんて有り得ないから。運がよければ3年間、何も知らずに平和な学園生活を送れるわ」

唄子はそう言うが、絶対この学校はおかしいと思う。俺は完璧に選択を間違えた。

「そんな顔しなくてもデフの連中とは校舎が離れてるし、ある意味別の学校よ? それにこっちにだって対策はあるわ」

「対策って…一体どんな」

恐る恐る尋ねる俺に、唄子はにっこり笑いかけた。

「まずデフに対する対抗組織として、風紀委員の設立。風紀には通常の活動に加えてデフの取り締まりを行ってもらってるの」

唄子の言葉をきいて、俺は思わずがっくりきた。

「風紀って…、そんな規則主義者に何が出来んだよ」

だが落胆する俺に唄子は、ちっちっちっと舌を鳴らした。

「ウチの風紀委員は他とは違うわ。理事長命令により特権が与えられていて、風紀の判断で生徒に罰則を与えたり、場合によっては停学にすることも可能」

「マジで!?」

それって生徒が生徒を取り締まってるってことか…? ある意味そっちの方が問題な気もする。

「だから風紀委員の選抜はすっごく難しいのよ。色々テストしなきゃならなくてね。まず武術系の部活に入部してないといけないし」

「武術系?」

「そ。柔道部に剣道部に空手部にレスリング部。あとラグビー部からも何人か。もうちょっとした武装集団よねー」

「…………」

そんなムキムキした奴らが風紀委員なんてやってるのか。しかもこの学園の平和が彼らにかかっていると。なんてことだ。

「彼らには正当防衛として多少の暴力行為が認められてるわ。あ、ちなみにスポーツ推薦で入学した子は風紀委員にはなれないの。何かあったら困るから」

「…つーか、そんな危なっかしい委員に入る奴なんているのか?」

俺だったら絶対ごめんだ。不良に目の敵にされる生活なんて。けれど唄子は相変わらずの笑顔で答えてきた。

「風紀委員に入るとね、内申点がすごいのよ。どれだけ頑張っても難しい点がすぐ取れるから、もう大人気の委員会」

「ああ、そう…」

そんなに成績が大事なのか、この学校の生徒は。まあ成績命! だってのはある程度想像してたことだが。

「ん、待てよ…、じゃあもしかしてアレって………」


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あきゅろす。
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