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ストレンジ・デイズ



「なに? どしたのキョウちゃん」

考え込む俺に唄子が首を傾けてきた。

「いや何かここに来る途中、人が倒れてたんだよ。そんな目立った怪我とかなかったけど。もしかしてソイツ、そのデフっつー連中に襲われたのかと思って」

たしか彼は男だと知りつつも、ときめいてしまうような愛らしい外見をしていた。今の話が事実なら強姦されてもおかしくない。けれど俺の言葉をきいた唄子は、しばらくしてからこう言った。

「ひょっとしてその子、小柄で栗毛でメガネじゃなかった?」

「そうだよ! なんだ知ってんの?」

唄子はうなずくと、今までよりさらに渋い顔になった。

「だったら多分デフは関係ないわよ。きっと親衛隊にやられたのね。可哀想に…」

「親衛隊?」

なんだそれは。風紀委員の別称か?

「実はその子、昨日の入学式でよりにもよってうちの生徒会長に話しかけちゃって。ヤバいんじゃないかって心配してたんだけど、案の定制裁加えられちゃったのね」

「…待て。全然意味がわからない。生徒会長に話しかけるのがそんなに悪いことか?」

制裁って…あんな気弱そうな男に。理解出来ない。けれど俺の疑問に唄子は、ハァ? という顔になった。

「馬鹿ね! 生徒会長はみんなの憧れなのよ? 入学したばかりの1年が話しかけたりしたら、親衛隊が黙ってないに決まってるじゃない!」

「ば、馬鹿って言うな! だからその親衛隊ってのが意味わかんねーの! なんでソイツらが怒るんだよ!」

俺の言葉にまたしても深いため息をつく唄子。やれやれという顔をされて段々俺も腹が立ってきた。

「親衛隊ってのは生徒会長のファンクラブみたいなものなの。王道には不可欠なんだから!」

ファンクラブ?
男が男のファンクラブ?

「キモッ! 何その集団! キモッ!」

「なっ、キモくないわよ! 日夜『ボク達の会長様に馴れ馴れしくしないでー!』って言ってる甲斐甲斐しい子達じゃない!」

「ますますキモッ!!!」

悪いが俺は完全に受け付けない。ボク達の会長様ぁ? 寝言は寝て言え。

「そんなふざけた集団にやられちまったのか…ますます不憫だ」

さっきあったばかりの名も知らぬ少年に思いを馳せる。確か外部生だとか言ってたっけ。知らなかったんだろうなぁ…気の毒に。

「と、こ、ろ、で」

メガネ君に同情していた俺は、急に近寄ってきた唄子にびっくりした。

「あたし、キョウちゃんと生徒会長、お似合いだと思うんだけどなー」

「……はあ?」

眉をひそめる俺を後目に、唄子は俺が持っていたパンフレットをペラペラめくり始めた。

「だからー、あたし的にキョウちゃんには生徒会長とくっ付いて欲しいわけよ」

「なんで? 生徒会長って女なの?」

「んな訳ねーだろ。ほおら見て見て、やっぱりお似合ーい♪」

そう言ってパンフレットを広げる、うっとり顔の唄子。一瞬彼女が怖く感じたのは気のせいだろうか。
見せられたパンフレットの中央には、生徒会長である男の写真が大きくのせられていた。その写真の下には『夏川 夏』とまたしても大きな活字で書かれている。

「えー…生徒会会長、なつかわなつ? 変な名前!」

「か、が、わ、な、つ! よ。間違えないで!」

うるさい女だ。それでも変なことには変わりない。小さい頃は100パーセントからかわれたに決まってる。

「…つうか、コイツよく見たら2年じゃん。何で生徒会長?」

名前の横にはハッキリと、2年A組とかかれてあった。

「ウチの学校は進学校だから、3年になったら一部を除いて完全に受験体制になるのよ。だから生徒会とか委員会も全部3年はいないの。…ってそれよりも、この写真見て何か思わない?」

唄子に言われてもう一度よく写真を見る。夏川君の第一印象を一言で言うなら、まさしく“不良”。ギラギラの金髪に耳に何個も開けたピアスの穴。コイツもしかしてデフの手先じゃねえのって疑いたくなるほど、夏川夏は生徒会長には見えなかった。

「…こんな写真のせて大丈夫なのかって思う」

「違う! そういうことじゃなくて! よく顔を見てよ! 何か感じるでしょ?」

「…………別に。ただの悪そうな顔だろ」

ウガーー! と床をがむしゃらに叩く唄子。何してんだコイツ。

「何でよ! よく見てよキョウちゃん! そんな綺麗な顔した美青年、他の学校にはいないわよ! あたしが男だったら迷わず抱かれるのに…」

「……別に女のまま抱かれりゃいいじゃん」

やっぱりつくづく変な女だ、阿佐ヶ丘唄子。


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