09
「ご安心を。女神、あなたには一切傷はつけませんから」
「違う!今すぐやめて!」
「いくらあなたのご意思でも聞けません。我らの邪魔をする者は我々始祖が消さなければならないのです」
イザヤの周囲で眩い閃光が弾けたかと思うと、それは一瞬のうちに四方に放射された。
悲鳴が上がる。閃光が駆け抜けた後の大地はどろどろに溶解され、コンクリートに不可思議な模様を描いていく。そしてその内の一つがシンの腕を貫いた。
「───っ!!」
「シン!!」
貫かれた二の腕から鮮血が噴出する。そんなシンの頭上を飛び越えた幾重もの閃光は、後方でルカと戦っていたメイファ達にも牙を剥いた。
「きゃあっ!!」
足元を掬われ、メイファは転倒する。その頭上目掛けて閃光が束になって襲い掛かるが、アナスタシアがメイファの体を抱えて横に跳んだ事によりメイファは難を逃れた。
「メイファ、大丈夫ですの!?」
「…ありがとうアル!」
「おーおー。やるなぁ、アナスタシア」
「きゃははっ!おっさん、よそ見してていいのー!?」
鋭い刃がエドガーに襲い掛かるが、エドガーは難なくそれを銃の刀身で防御する。
響く、耳障りなルカの哄笑。
「きゃははっ!無駄だっつの!あたしの得物はもう一本あるんだよ!」
脇から現れた巨大な刃が牙を剥く。避けきれず、それは白衣の上からエドガーの腕を切り裂いた。
下に巻かれていた包帯も裂け、真っ赤な鮮血がコンクリートを彩る。その様に、彼にしては珍しくエドガーは顕著なまでに頬を強張らせた。
「…っ野郎──!!」
力任せにルカを蹴り付けるも、それは空しく虚空を裂いただけだった。後方に跳ぶ事で一撃を回避したルカは、面白そうに笑っている。
「あっれー?どーしたの、おっさん。まさか、怪我するのが怖いの?」
「…っまーな。こんな怪我する機会なんざ、ないんでね」
溢れる鮮血が腕を伝う。コンクリートに血溜まりを形成させていくそれは明らかに出血量が異常であった。
「エドガー!凄い血ヨ!」
「気にしなさんな。ちょっと深いだけだから」
そう言い、エドガーは血に塗れた手でライフルを構えた。その時、低い汽笛の音が港に木霊した。
「!船が──!」
それは、優達が乗る旅客船の出航の合図だった。遠くにある巨大な船体が真っ白な煙を上げている。
「まずいですわ!あれに乗れなかったら──!」
「また一週間待つ羽目になるアル!」
「みんな、走れ!!」
声を張り、腕を庇いながらシンは駆け抜けた。
「シン!怪我は──!」
「いいから!とにかく船に向かって走れ!」
「そうはさせませんよ」
イザヤの周囲に再度光が集結する。
「いい加減にしてよ、イザヤ!」
振り返った優の周囲で空気が一気に膨張し、火炎弾が次々とイザヤに襲い掛かった。
白煙が視界を閉ざす。だが、それは突如として巻き起こった旋風に吹き消された。
未だ微風が立ち込める中で、イザヤは辺りを見回す。広い敷地内にはどこにも優達の姿は無く、ただ旅客船が汽笛を上げながら離岸していっていた。
「──…逃げられたか」
「あーあ。残念やったなぁ、イザヤ」
上空から降ってきた暢気な声に、ルカは訝しげに顔を上げた。
「…ちょっとアダム、そこで何やってんの?つかいつからいたの?」
「んー?」
そんなに高度の無い地点──と言っても数メートル上空にアダムはいた。
さも大地の上にいるが如くに宙に佇んだまま、アダムはにんまりと笑ってルカに手を振った。
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