07(終)
西欧諸国の人間としては合衆国は文字通り嫌悪そのもの。
それが一時的な寄港であろうとも、シン達にとっては何が何でも避けたい事項だ。
「…分かりました。乗客の方にもそう伝えておきましょう」
だがそうは言っていられない。沈没は無いにしろ、もし大洋のど真ん中でエネルギーが切れてしまったら元も子もないのだ。
「申し訳ございません、異端審問官様」
「…いえ、仕方のない事です。襲来を予期出来なかった私に非がある」
「船を襲ってきたのは一体何者だったのですか?」
「大した賊ではありませんから」
間髪入れずシンは答えた。
声色にこれ以上の詮索を拒む色を含ませて。
船長も察したのか、そうですか、と言っただけでそれ以上の言及はしてこなかった。
「最短ルートを取ります。合衆国の港までおよそ一時間程で到着するでしょう。異端審問官様も、どうぞ客室で休まれて下さい」
「えぇ。では失礼します」
一礼と共にシンは船長室を後にした。
(優達にも伝える、か──)
その時、優の先程の顔が思い起こされてシンの足ははた、と止まった。
「…俺、───」
──あの時、何て口走った?
徐々に呼び起こされる記憶。
──優が女神だからだ!女神を守るのは俺達異端審問官の義務だ!それ以外に守る理由なんてねぇんだよ!──
「………」
あぁ、そうか。
シンはぼんやりとそう思っただけで、動揺する事はなかった。
それは、紛れも無い事実だから。
女神を崇め、敬い、讃え──それを信条にしてきた薔薇十字団の一員として、それは当然の感情なのだ。
(一応…俺が神器発現者ってのも関係してるんだ。…そうだ、それだけだ)
だから、優──女神──の身を案じてしまうのは必然的な事なのだ。
強く自身にそう言い聞かすと、シンは顔を上げて真っ直ぐ優達のいるところへと向かった。
──頭のどこかで、その答えに疑問を投げ掛ける自身の声を聞きながら。
to be continued...
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