08(終)
建物の中心部にあるのにそこの周囲だけ瓦礫が降り注いでいないのだ。それは、さながら大いなる力によって守られたかのようだ。
駆けつけたシンはそこに捜し求めていた少女の影を捉えて息を呑んだが、それだけではなかった。
そこにいたもう一人の人物にシンの碧眼は大きく瞠られた。
「イザヤ……──」
意識を失っている優の体を抱き締めるように、イザヤはその空間で膝を付いている。
優を見下ろすその瞳には柔らかな思慕の情が宿っており、そしてその瞳がゆっくりとシンに移された。
「おや、シンではありませんか。もう任務は終わったんですね」
「イザヤ………っお前…──」
柔らかく微笑み、イザヤは目覚める気配のない優の頬を撫でた。
その仕草にシンは底知れぬ怒りを感じ、気付いた時にはイザヤを突き飛ばし、優を引ったくるように抱き締めていた。
「てめえ!何してるんだよ!」
「随分な言葉遣いですね」
意に介した風もなく、イザヤは埃をはたく。
そして、優の体を抱き締めたまま、剣呑の光を放っているシンの瞳を見つめ、イザヤは、成る程、と呟いて碧眼を細めた。
「…あなたも女神を愛する──当然と言えば当然の事か」
「……女神…?」
ハッとして、シンは気を失ったままの優の顔を覗き込んだ。
「今日はもうこれくらいにしておきましょう。──シン、それではまたいずれの機会に。それまで我らが女神を傷付けないようにお願いしますね」
その言葉を皮切りに、イザヤの周囲を光が取り囲んだかと思うと、スパークするように弾けてイザヤの姿は忽然と消えた。
周囲は相変わらずの混乱に包まれているが、その喧騒もシンの耳には遠かった。
シンはぎりっと唇を噛み締め、ただ優の肩口に顔を埋めた──。
to be continued...
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