07
「アナスタシア」
「私も参りますわ」
「スピード上げるけど大丈夫か?」
「ええ」
「分かった」
ぐっと足に力を込め、シンとアナスタシアは一陣の風となって砂埃の立ち込める通りを駆け抜けた。
やがて、薔薇十字団の敷地があった場所に辿り着いたシンは声を失った。
そこには、あの西欧諸国の体現とも言われた尖塔の姿はどこにもなかった。
灰色に塗り潰された世界には煉瓦や瓦礫が辺りに散乱し、そしてそれに潰されている教団関係者達の無残な亡骸しかなかった。
ただ、それでもまだ生存者がいるのか、駆け付けた街の人々が必死になって瓦礫の山をどかしているのが伺えたが、シンはそこから一歩も動けなかった。
「………シン…?」
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきてシンは振り返った。
そこにいたのは、色を失くしたメイファだった。
「……メイファ、お前…優は?」
「──…ふえぇ…っシン…っ優が、優がぁ…」
その言葉にシンの顔色が変わった。
声を上げてメイファは泣き出し、ただ優の名を繰り返した。
「おい!優がどうしたって言うんだ!」
「優が…っうち…もう…ふぇ…っ」
「メイファ!!」
「駄目よシン、落ち着いて!」
メイファを揺さぶるシンを羽交い絞めにし、アナスタシアは泣き続けるメイファの体を抱き締めた。
「ねえ、あなた落ち着いて?どうしたの、一体何があったの?」
「…っわ、わかんないヨ。だけど、優朝からずっと薔薇十字団に行ってて……っひく…それでまだ帰ってこなくて…そしたら…」
アナスタシアの胸に顔を埋め、メイファの嗚咽は大きくなる。
あやすようにアナスタシアは小さな背中を叩き、ゆっくりとシンを仰ぎ見た。
「優………?」
立ち竦んでいるシンの表情は、顕著な程青ざめている。
「…優──!」
絞り出すような声と共に、シンは瓦礫の山を駆け抜けた。
足元の瓦礫の下から助けを求める声が聞こえるが、今のシンにそれに応える余裕などない。
「優!おい、優!」
周囲を見渡すが何処にも彼女の姿はない。
その時、不思議な空間をシンは捉えた。
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